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「フェリシア、あなたもそう思いますわよね?」
「私は新参ですし、こういった事には疎いので……」
あ、フェリシアが上手く逃げました。
どこにも敵を作らない上手な逃げ方です。
誤魔化すように目を逸らしてしまったフェリシアに、「……やっぱり太々しいですわ」とメルディナが顔を引き攣らせました。フェリシアは大切な友人ですが、それについては同意ですよ。
フェリシアは一年前に南の大公爵リュシアンと挙式し、正式に南の大公爵夫人になりました。戦乙女として魔界で英雄視される彼女ですが農民出です。身分違いの嫁ぎ先に苦労しているのではと心配していましたが、……なんだかんだ上手くやっているようですね。むしろ得意そうです。
「とにかく、くれぐれも度を超すぎませんように」
ダニエラが仕切り直すように私に忠告しました。
私たちのやり取りに呆れた顔をしていますが、彼女の厳しさは鉄壁です。
「承知しています。守らねばならない秩序もありますよね」
彼女の言葉は尤もで、私も頷いて返しました。
私とて古くからの秩序や権威、慣例を蔑ろにするつもりはありません。貧民だった私には理解できないものもありますが、長い歴史の中で培われてきたものには意味があるのでしょう。
こうして私たちは北離宮のサロンに向かい、その扉が開かれる。
サロンのガラス張りの高い天井から明るい陽射しが差して、輝くような華やかさ。広々としたサロンには魔界各地から集まったたくさんの貴族の夫人や令嬢が起立して待っていました。
「皆さん、こんにちは。王都へようこそ来てくださいました。短い時間ですが楽しんでいってください」
私の挨拶に皆が恭しくお辞儀してくれます。
それに返礼し、サロンの奥へと進みました。
私が歩くにしたがって夫人や令嬢たちが脇に下がって道を開ける。
「王妃様、ご機嫌麗しく」
「王妃様、今日を楽しみにしておりました」
「王妃様、お会いできて光栄です」
皆が緊張しながらも声を掛けてくれます。
それに嬉しさと安堵を覚えながら、短い返礼をして進みました。
そしてサロンの奥にある特別な区域。広いサロン内を見渡せるそこが私や四大公爵夫人が憩う場所でした。
私が中心に置かれたチェアに着席すると、四大公爵夫人もそれぞれ着席する。
サロンに皆が揃い、明るい陽射しの下でお茶会の始まりです。
お茶会では皆が自由にお茶や歓談をして過ごします。サロンのいたるところから華やかな談笑の声が聞こえてとても楽しそう。普段は魔界の各地で暮らしている貴族たちが一堂に会するのですから、きっと会話が尽きないのですね。
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