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「ランディ、メルディナ、王都へよく来てくれました。クロードもまだこんなに小さいのに一緒に来てくれて嬉しいですよ」
「光栄ですわ。抱っこしてもよろしくてよ?」
「わっ、ありがとうございます!」
「そんなに喜ぶことかしら。勇者と冥王を育てているんだから赤ん坊なんて見慣れているのに」
「そういう問題ではありませんよ。クロードはクロードですから」
メルディナからクロードを差し出されました。
私は緊張しながらも両腕を差し出して、生後一ヶ月の小さな赤ん坊をそっと抱きとります。
「ああ、可愛いですね。とてもお利口です」
両腕に乗った甘い温もり。軽いのに重い、小さな命の重みです。
クロードの円らな瞳を覗き込んで笑いかける。
「初めまして、ブレイラと申します。あなたがクロードですね。あなたに会えるのを楽しみにしていました」
クロードの黒い瞳が私をじっと見つめてくる。
その瞳を見つめ返して笑いかけると、今までマアヤと控えていたゼロスが側に駆けてきました。
「ブレイラ、ぼくも! ぼくもあかちゃんみたい!」
ゼロスが私の足に抱きついて背伸びをします。
なんとか赤ん坊を覗こうとする姿に思わず笑ってしまう。
「ふふふ、いいですよ。ゼロス、この赤ちゃんがクロードです」
膝をついて抱っこしているクロードを見せると、ゼロスの大きな瞳がキラキラと輝きました。
こんなに近くで赤ん坊を見るのは初めてなのです。
「ちいさい……」
「そうですね。まだ生まれて一ヶ月なんです」
「まるい……」
「赤ちゃんとはそういうものです」
「……ちょっとだけ、さわってもいい?」
「優しくしてあげてくださいね」
「わかった」
「ではどうぞ」
そう言ってクロードをゼロスに寄せると、ゼロスは緊張した面持ちになります。
でも、そーっと手を伸ばして指先でちょんとクロードの頬に触れました。
赤ん坊の感触にゼロスの顔がパァッと輝く。
「や、やわらかいっ」
「ふふふ、そうですね。赤ちゃんですから」
「ふわふわのパンみたい!」
「食べてはいけませんよ?」
「むーっ、たべないもんっ」
「それなら安心です」
ゼロスに笑いかけて立ち上がり、メルディナと向かい合う。
どれだけ私がハウストと愛し合っても決して彼に与えられないもの。それが世継ぎでした。
メルディナは次代の魔王を生誕させるという重責を担ってランディと結婚し、それを叶えてくれたのです。彼女にはどれだけ感謝しても足りません。
「メルディナ、ありがとうございます。ほんとうにありがとう」
「当然ですわ。感謝されることでもありませんわよ」
メルディナが勝ち気に微笑む。
それは誇り高い魔界の姫らしいもので、私の口元も綻んでいく。
「ふふふ、それでも感謝させてください。あなたのお陰です。クロードはきっと素晴らしい次代の魔王になるでしょう」
そう、クロードは次代の魔王。
まだずっと先のことですが、いずれハウストの後を継いで魔王になるのです。
そしてクロードが魔王になった時、対等に並び立つ四界の王は勇者イスラや冥王ゼロス。この子ども達が築く未来の世界はどんなものになるのでしょうか。
それは想像すると胸が躍るような、楽しみな未来の形でした。
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