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「安心しました。あなたに嫌われたらどうしようかと思いました」
「……あんしん、したの?」
「はいっ、大好きなゼロスに嫌われるなんて絶対に嫌だったんですっ」
「そうなんだ……」
ゼロスはくすぐったい気持ちになって目を泳がせた。
どうしてだろう。ゼロスは不思議と嬉しくなった。
ブレイラをクロードから引き離せていないのに、このままじゃ独り占めできないのに、ブレイラはこれからもクロードをたくさん抱っこしたいと言っているのに、それなのに。
「……ぼくが、だいすきだから?」
「はい、大好きなんです」
「そ、そっか~!」
ゼロスの顔にじわじわと笑みが溢れだす。
ブレイラはゼロスがブレイラを嫌いになってしまうのが絶対嫌なのだという。ゼロスが大好きだから絶対嫌わないでほしいという。
「もう、ブレイラはしかたないなあ~」
ゼロスはデレデレしながら言った。
大好きなら、それなら仕方ない。だってブレイラはゼロスを大好きだから。
「ねえ、ブレイラ。ぼくのこと、すき?」
「はい、大好きですよ」
「ぼく、かわいい?」
「はい、可愛いですよ」
「ぼく、かっこいい?」
「はい、かっこいいですよ。素敵な冥王様です」
「えへへ。ぼく、すてきなめいおうさま~」
ゼロスは満面笑顔になっていた。
ブレイラはそんなゼロスの横顔に小さく笑い、その小さな体をぎゅっと抱き締める。
二人で見上げた夜空の月は輝きを増していた。本当はそろそろ城に帰らなければいけないけれど。
「ゼロス、今夜はもう少しこうしていましょうか」
「うん!」
ブレイラが提案するとゼロスが大きく頷いた。
二人で夜空を眺めるこの時間。まるで特別な時間のように思えてゼロスはブレイラの腕にぎゅっと抱きついたのだった。
「…………。やっぱりこうなったか」
丘にいる二人の後ろ姿をイスラが離れた木陰からこっそり覗いていた。
こうなるような気がしていたのだ。
「経験者はお見通しだな」
背後からハウストがからかった。
イラッとしたイスラは振り向いて文句言おうとしたが、……開きかけた口が閉じる。ハウストが赤ん坊を抱えていて気が削がれた。しかも赤ん坊は無愛想な顔でハンカチをむにゃむにゃ咥えている。
城に残して女官に任せても良かったのにブレイラに任されたから置いてこれなかったのだろう。城から抱っこしてきたのかと思うと脱力しそうだ。
ハウストがブレイラに弱いことは知っているが、イスラがゼロスくらいの頃のハウストはもっと近寄りがたい雰囲気を纏っていて、もっと鋭くて、緊張感もあって、ブレイラにも厳しいところがあって……。とりあえず妃に頼まれたからといって赤ん坊を抱えて森をうろうろする男ではなかった。
やはり子どもも三人目になるといろんな意味で丸くなるのだろうか。
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