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「イスラも初めてゼロスを見た時はとても緊張していました。今ではゼロスに剣術や体術の指導もしてくれていますが、少し厳しくすると『おてて、いたい~』とゼロスが駄々をこねると困っていましたよ」
「…………あれは甘ったれだからな」
「はい、困ったものです」
甘える顔はとても可愛いんですけどね、冥王が甘えん坊というのも困りものです。
でもクロードが誕生したことでゼロスも年上の自覚が芽生えてくれるかもしれません。イスラもゼロスが誕生してからやたらと兄上だということを意識していましたから。
「今日、クロードが来てくれたのは丁度良かったです。イスラにもクロードに会わせてあげられますから」
「イスラが帰ってくるのか?」
「はい、お手紙が届きました。明日の夕方までには魔界に帰って来てくれます」
イスラは一週間前から人間界に行っていました。相変わらず人間界のどこへ行っているのか分かりませんが、魔界と人間界を行ったり来たりしています。私はどうしても寂しさを覚えてしまいますが、これはイスラにとって必要なことと思って我慢です。
ああ、でも明日が待ち遠しくて口元が緩んでしまう。
しかし隣からハウストの視線。
振り向くと唇に口付けられる。
「……なんです、いきなり」
「ニヤニヤしていたから口を塞いだ」
「ニヤニヤとは失礼ですね。ニコニコです」
「……そういう事にしておこう」
ハウストは小さく苦笑すると、また私に口付けてくれる。
唇、頬、鼻、耳へと口付けられてそのまま首へと降りていく。
首元の柔らかな肌に甘く歯を立てられながら寝衣の裾がゆっくりと捲りあげられていきました。
素足に外気を感じてなんだかくすぐったい。
「ハウスト……、くすぐったいですよ」
本当はそれだけではないのですが素直に認めるのは恥ずかしい。
乱されてしまえばそんなことを思う余裕なんてなくなるのも分かっていますが、まだ素面の状態だというのに、そんな……。
顔が熱くなって、そっと目を逸らす。
そんな私の目元にハウストは唇を寄せる。
ちらりとハウストを見ると、彼は苦笑していました。
「これはお前の様式美か? 照れ隠しだということは分かっているが、たまには最初から乱れるところも見てみたい気がするぞ」
「…………私に、そんな破廉恥な真似をしろと?」
「興味がある。潔癖なお前が抱かれることしか考えられなくなるくらい乱れる姿が見てみたい」
「馬鹿なことを」
むっとして答えるとハウストが喉奥で笑う。
でもふいに笑いを引っ込めて、私を真剣な面差しで見つめます。
「ブレイラ、知っているか?」
「……なんですか?」
「最近、王都の一部の若者の間に媚薬が出回っているらしい」
「媚薬?!」
驚いて目を丸めました。
び、びび媚薬とは、あの媚薬のことですよね?!
あの体を興奮させて、相手をその気にさせるような、この上なくいかがわしくて破廉恥な薬……。私も薬師をしていたので知っています。作ったことはありませんが色事で使う興奮剤のことですよね!
「そんな物が出回っていて大丈夫なんですか?! なにか危険なことになっているとか……」
「出回っている物なら大丈夫だ。そこそこ効くらしいが調べさせたら依存性も認められない遊びのような薬だった。合法内だと思っていいだろう」
「そうですか、それなら、まあ……」
理解できたわけではありませんが、遊びでも刺激を必要とする方々もいるのでしょう。調査済みで合法内なら特に問題視することはありません。
「そこでだ。どうしてこんな話しをしたと思う」
「どうしてって……、どうしてですか?」
意味が分からず問い返すとハウストはニヤリと口端を吊り上げました。
そして彼の目線が先ほどまで飲んでいた紅茶に向けられる。
意味ありげなそれに首を傾げるも……。
「っ、まさかっ……!」
「さっきの紅茶に混ぜたと言ったらどうする?」
「なんてことをっ!」
思わず彼を押しのけようとする。
でもその前に両手を掴まれてソファの背に縫い付けられてしまう。
抵抗したくてもハウストの力は強くて振り払うことはできません。
ハウストは喉奥で笑うと、呼吸が届くほど近くに顔を寄せてくる。
「どうだ、なにか変わったところは?」
「そ、そそ、そんなの知りませんっ」
「そうか、もう少し待ってみるか」
ハウストはそう言うと私の首元に顔を埋めました。
唇を寄せられる感触。舌が這い、強く吸われてぴくりと反応してしまう。
たったそれだけの愛撫なのに、いつもより感覚が鋭敏になっているような……。
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