第四章・私の星

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「お願いがあります。ここを抜けた先から転移魔法陣が発動できるので、そこから動けない女官や侍女、あとゼロスも魔界に転移していただけませんか?」 「それは構わねぇけど、ブレイラはどうするんだ」 「私はイスラを探します」 「ブレイラ様?」  話を聞いていたコレットが驚いた顔になる。他の女官や侍女たちも同様です。  分かっています。私は魔界に帰るべきなんですよね。それにイスラが戦いに赴いたなら、そこに私が行っても足手纏いになるだけです。  イスラは強くて、賢くて、勇敢で、優しくて、どんな強敵を前にしても怯むことはありません。どんなに困難な戦いに赴いても必ず私のところに帰ってきてくれます。  でも今、胸騒ぎがするのです。  だってイスラが初めて私を振り返りました。  あの子は戦いに赴く時、幼い頃から一度も振り返ったことがないのです。振り返らずに前だけを見て駆けていくのです。  それなのにイスラは振り返って、その時の姿が目に焼き付いていて、どうしても、どうしても胸が落ち着きません。心臓がどくどくと鳴って、焦りのような、急き立てられるような、そんな感覚。今すぐイスラに会いたいのです。 「お願いします。今すぐイスラを探させてください」 「この国に勇者が来てんのか?」  アベルに聞かれ、先ほどイスラに助けられたことを話しました。  この混乱はジークヘルムによって引き起こされたということも。 「私たちを襲っている怪物は人間が変異したもののようです。ジークヘルムの企みだとイスラが言っていました。イスラはジークヘルムの始末をつけると」 「そうか、だが勇者探しは俺の兵士にさせる。ブレイラは魔界の王妃だろ。分かってんのか」 「そ、そうですが、でも今すぐイスラを探しに行きたいんです! お願いしますっ、私をイスラの所に行かせてください!」 「勇者になにかあったのか?」  必死な私にアベルが訝しみました。  落ち着かない私に違和感を覚えたのでしょう。 「……分かりません。勘だと答えたら怒りますか? でも無性に焦るんですっ! お願いします……!」 「冗談だろ……」  アベルが呆れたように空を仰ぎました。  彼は私の立場を考えてくれているのです。  ごめんなさい、とても迷惑をかけていることは自覚しています。  引き下がらない私にアベルは頭を抱えましたが、エルマリスが苦笑しながらも口を開きました。 「アベル様、思案する時間は無駄というものです。ブレイラ様が頑固だということ、お忘れですか?」 「…………忘れるわけねぇだろ。ほんと面倒な奴だな」  アベルがじろりと私を見ました。  言い返せなくて目を逸らすことしかできません。  そんな私たちのやり取りにエルマリスが申し出てくれます。 「僕がブレイラ様に同行します」 「ああ、頼む。ブレイラ、勇者を見つけたらすぐに引き上げてこい。それなら無茶も見なかった事にしてやる」 「ありがとうございます! エルマリスも一緒に来てくれて感謝します!」  エルマリスが一緒に来てくれるなら心強いです。  イスラを探しに行くことが出来て安堵すると、くいくいと裾が引っ張られました。ゼロスです。 「……ブレイラ、ぼくもブレイラといっしょがいい」  泣きそうな顔でゼロスが言いました。  私の足にぎゅっと抱きついて見上げてきます。  不安なのですね。力を制御できなかったことを心に引きずって、居た堪れなくて、どうしていいか分からないのですね。でも。 「ゼロス、あなたは先に魔界へ戻っていなさい」 「どうして?! ぼくもブレイラといっしょがいい!」 「いけません。私とあなたは足手纏いなのです。これ以上、皆に迷惑をかけるわけにはいきません。あなたに何かあったらどうするんですか」 「ぼくが、……じょうずに、できなかったから?」  ゼロスが小さな唇を噛みしめました。  悲しそうな、悔しそうな顔です。  あなたが一人でいたくない時に一緒にいてあげられなくてごめんなさい。  悲しい思いをさせてしまうけれど、今は耐える時です。
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