第四章・私の星

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「貴様が何を企んでいるかは知らない。俺は人間界の国々の政にも深く関わる気はない。だが決めたぞ、貴様を人間界から排除する!」  それは王の宣告。  この国の民衆は勇者を信じていた。助けを求めていた。理由はそれだけで充分だ。  イスラは魔力を解放して剣を構えた。  勇者の強大な魔力がルメニヒの膨れ上がった魔力を吹き飛ばす。  そして一気に距離を詰めるとイスラが剣を振り下ろした。  ルメニヒは咄嗟に避けるも衝撃に吹き飛ばされる。イスラは地面を蹴ってルメニヒを追い、追い詰めて一気に始末をつけようとした。 「これで終わりだ!! っ、え?!」  ガシリッ!  突如、背後から腕が掴まれた。  イスラは振り返り、驚愕に目を見開く。  腕を掴んだのはイスラをここまで案内した男だったのだ。  それだけじゃない、さっき森から逃げてきた者達も次から次にイスラにしがみ付いて動きを封じる。 「お、おい、離せ!!」  予想外のことにイスラは動揺して振り払おうとした。だが民衆は離されまいと必死の形相でしがみ付き続ける。  その展開にルメニヒは微笑を浮かべてイスラに近づく。 「いかがですか? 私の可愛い信者たちは」 「信者だと? まさか教団にっ……!」  民衆は既に教団の信仰者になっていた。  民衆はイスラを騙してここに連れてきたのだ。  しがみ付く腕はイスラを離さず、ルメニヒに捧げるように拘束している。  民衆はイスラを勇者と崇めながら、狂信のままイスラを差し出したのだ。 「その通りでございます。本当なら勇者様もぜひ私に従い、人間界の正しき王になっていただきたかったのですが、……仕方ありません」  ルメニヒはそう言うとローブの袖から黒い短剣を取り出した。  短剣の黒い刃。鋭く黒光りするそれにイスラは息を飲む。短剣から禍々しい力を感じたのだ。  ルメニヒは口角をニタリと吊り上げる。そして。 「勇者様には象徴として、我々人間の為に尽くしていただきましょう!!」  ――――ザンッ!!  腕が……熱い。  イスラがそう認知したのと、視界が赤く染まったのは同時。  ごろんっ。地面に転がったのは、左腕。 「っ、く……!」  見ると左腕がなかった。  切断され、腕が地面に転がっている。  腕の切断部からは血が噴き出し、辺りを血飛沫で染めていく。 「ッ、グアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」  イスラは絶叫した。  熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い!!!!  血が噴き出す切断部を押さえ、ガクリッと地面に膝をついた。  全身から冷や汗が噴き出して呼吸がうまく出来ない。苦しさに足掻くのに、体が動かなくなっていく。  熱を感じていたのに急激に体温が下がり、意識が朦朧とし始める。 「くそッ、貴様ら……!」  イスラが地面に膝をつきながらも、ギロリッとルメニヒと民衆を睨みつける。  民衆は「ヒッ」と脅えて後ずさったが、ルメニヒはうっそりと笑ってイスラを見下ろした。  そして切断したイスラの左腕を拾い、両手に抱いてうっとりと頬擦りする。 「おおっ、勇者様の御体! これぞ人間界の新たなる力! 新たな人間界の象徴になるでしょう!!」  ルメニヒは興奮と恍惚の表情で言うと、イスラを見下ろして唇に薄い笑みを浮かべた。  膝を屈したイスラに手を伸ばし、血飛沫で赤く染まる頬をなぞる。
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