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「ゼロス、こちらへ来てください」
「で、でも……」
ゼロスがハウストをちらちら見ました。
見るからに警戒した様子にハウストも苦笑します。「入ってこい」と彼が許可するとゼロスが嬉しそうに駆けこんできました。
「ブレイラ!」
椅子に座っていた私の腰にぎゅっと抱きついてきました。
膝に突っ伏したゼロスの頭に手を置いて、いい子いい子と撫でてあげます。
「心配をかけてしまいましたね」
「……だいじょうぶ。でも、だっこして」
「いいですよ」
ゼロスの小さな体を膝に抱っこしてあげます。
私に抱っこされたままゼロスがイスラを見ました。
「あにうえ、どうしたの……?」
いつもと違ったイスラの様子にゼロスが困惑した顔になりました。
あなたも何かが起きていると感じているのですね。
私は真剣な顔を作ります。
「ゼロス、よく聞いてください」
「な、なあに?」
ゼロスが緊張に息を飲みました。
幼いながらも真剣に聞こうとしてくれます。私も向き合って嘘も誤魔化しもしません。
「イスラが大怪我をしました」
「……あにうえ、いたいの?」
「……はい。腕を、……失いました」
「…………」
ゼロスは自分の腕を見て、次いでイスラの腕がある場所を見ました。
最初は理解できずにきょとんとしていたゼロスですが、違和感に気付いたのかみるみる顔が強張っていく。
ゼロスは青褪めて私にぎゅっと抱きつきました。
「あにうえ、うでが……。どうして?」
「……今、人間界では大変なことが起きています。イスラは勇者なので、……」
言葉が詰まりました。
勇者だから、勇者だからなんだというのです。
イスラは勇者で人間の王。私はイスラが宿命を受け止められる強い王になってほしいと願っています。でもそれは人間の為に犠牲になれということではありません。
「……ブレイラ?」
黙り込んでしまった私をゼロスが心配そうに見ていました。
なんでもないですよとゼロスを宥めながら、イスラに目を向けます。
昏々と眠り続ける姿に胸が苦しくて、どうしていいか分からなくて、唇を噛み締めることしかできませんでした……。
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