第五章・星屑を抱いて

7/19
前へ
/374ページ
次へ
 翌日の朝。  カーテンを開けると明るい陽射しが差し込みました。 「気分はどうですか? 痛かったり苦しかったりしませんか?」 「大丈夫だ。特に問題ない」 「そうですか、それは良かったです」  昨夜イスラが目覚めました。  目覚めてもすぐに気を失ってしまいましたが、目覚めてくれただけで充分なのです。  幸いにも医務官の見立てでは切断部の治癒も早く、回復に向かっていました。それは常人では考えられない驚くべきことですが、神格の存在である四界の王は常人よりも体力値や自然治癒力がとても高いのです。今回の大怪我も常人なら死んでいてもおかしくないものでしたが、イスラは後数日で日常生活に戻れるまでに切断部の傷が癒えるそうです。  イスラの額に手を置いて熱を確かめます。  手の平に伝わる熱は心地良いもので安心しました。 「平熱に戻っていますね。汗を拭いてあげます」  イスラは朝方まで発熱していましたが今は熱も下がって体調も落ち着いているようでした。  でも発熱で全身汗をかいていました。体を冷やしてしまっては風邪を引いてしまいます。  イスラが体を起こすのを手伝って、背中にクッションを置きました。 「イスラ、シャツを脱がせますからね。腕をこちらに」 「ああ、ありがとう」  ゆっくりシャツを脱がしていきます。  顕わになった双肩と厚い胸板はしなやかで強靭な筋肉に覆われていました。  縦にばかり育つ年頃ですが、それでも特別に鍛えていると分かる体躯。それは戦う為の肉体です。  イスラの体は若木のような瑞々しさと生命力に溢れていますが、切断部に巻かれた包帯が痛々しくて堪らない気持ちが込み上げてしまう。  そこには今までイスラの左腕があったのに、今は空虚な空間があるだけで何もないのです。  でも表情には平静を装いました。  女官に用意してもらった水桶と手拭いで背中を拭いていきます。 「背中を拭きますね。痒いところはありませんか?」 「大丈夫だ」 「腕を少し上げられますか?」 「ああ」  切断部を刺激しないように丁寧に拭きました。  筋肉で硬い背中を拭いていると、くすぐったいのか形良い肩甲骨が動きます。当たり前のことなのに些細な動きの一つ一つに安心しました。 「終わりましたよ。綺麗になりました」  イスラの体の細部まで確かめたくて、時間をかけて体を拭きました。  さっぱりしたのかイスラの口元も綻んでいます。  新しいシャツに腕を通させて釦を一つ一つ留めていく。女官が替わろうと申し出てくれますが、気持ちだけ頂いて断りました。私がしたいのです。  こうしてイスラの身支度を整えると、――――バタバタバタ! 勢いよく走る子どもの足音が聞こえました。ゼロスですね。この城で騒がしく走りまわる子どもなんてゼロスしかいません。  足音が部屋に近づいてきて、バタンッと扉が開かれます。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!

245人が本棚に入れています
本棚に追加