日常

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日常

 あの日の朝、山道を登る蝶子は、確かに「最後のブランコにしよう」と思っていた。  でも結局そうはならなかった。  月に1回くらい、蝶子は山に登り、ブランコで銀子と落ち合う。  頂上に先についた方が、手を振って出迎える。そうして交代でブランコを漕ぎ、すっきりしてから二人で出かける。    ブランコは相変わらず、蝶子たちを鳥の気分にさせてくれる。  一人だったら人の目を気にして、最後にしようと思ったけど、二人なら観光客のように「写真を撮っている」と言い訳ができる。  「世間の目なんて全っ然気にしない!」というわけにはいかないのが少し(しゃく)だけど、銀子といるのは楽しくて、そのくらい些細な落としどころだな、と蝶子は思うのだった。 「花野さん、なにかいいことありました?」  ある日、6つ下の後輩に聞かれた。  「彼氏でもできたんですか?」と聞かれなかったことに安堵する。田舎でも、価値観は少しずつ変わってきているのかも、と思う。 「新しい友達ができてね」 「ええー、いいっすね! 学生の頃はともかく、この歳になって友達作るの難しいですよね。   いい出会いがあったんですね」  後輩は屈託なく笑う。  蝶子は、銀子の顔を思い浮かべて、「うん」と笑った。
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