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心臓がバクバク煩い。もうすぐ終電が来る。
さっき平井さんから
『ホントにギリギリになっちゃったけど、終電に乗れたって楠木ちゃんから連絡来たから計画通りだよ!
頑張って!須藤くんならヤれる!
それからいい子は捕まらなかったから須藤くんのお部屋借りるねー。
また落ち着いたら連絡ちょうだいねー』とメールが届いた。ちょっと落ち着いた。
電車がホームに入るアナウンスが流れる。ギリギリ駆け込む人達が階段を駆け上がって行く。
電車が止まってドアの開く音がした。
よしっ!時間調節をしながら階段をゆっくり上がる。
ホームが見えた時に発車のベルが鳴り始めた。
よそ見をしている彼女が目の前に居た。ダッシュで階段を駆け上がり俺の鞄を彼女の鞄にぶつけ中身をぶちまけさせた。
「わっ!!すみません!!大丈夫ですか!」
「あ、いえ!こちらこそ!大丈夫です!電車乗って下さい!」
これ平井さんが用意したんだろーな。と笑いを堪えながら辺りに散らばったお菓子を拾おうとしゃがみ込んだ。
「あの!大丈夫ですから!電車に…乗っ…」
プシューーー。。。。ガタン、、ガタン、、ゴトン、、
チラッと盗み見たシアンはドアが閉まり動き出した電車を見て絶望したようなとんでもない顔をして固まっていた。
吹き出しそうなのを全力で我慢した。
よっしゃあああああああぁーーー!!
俺は立ち上がって両手の拳を天に突き上げて雄叫びをあげ、ゆっくりと去り行く電車に敬礼したいのも全力で我慢した。
「終電だったのにホントに…申し訳ないです…。」
そうだった。まだ第一関門だ。
ふふふ。申し訳なさそうにしてる。もっとちょうだい?
もっと申し訳なくて罪悪感を感じて?
シアンさん俺、無害な良い人なんですよ。
「いえ俺こそぶつかってしまってすみませんでした。お怪我はないですか?」
俺の事よりあなたの事を心配してますからね?ホント凄く良い人でしょ?
「はい!大丈夫ですよ」
あぁ可愛い。
「よかったです」
ねぇもっと罪悪感にさいなまれて?
微笑んで派手に散らばった中身を拾い集めて彼女の鞄に入れていった。
最後の物を手渡し立ち上がるタイミングでシアンに手を差し出した。
上目遣いで俺と手を交互に見てゆっくりと柔らかい手を乗せて来た。
顔色を一切変えずにゆっくりした所作で優雅に立ち上がる。
お姫様だ。
「ありがとうございます。あの…。つかぬ事をお伺いしますが、今からどうされるのですか?」
上目遣いで眉尻を下げて見つめてくる。
誰にでもそんな顔をして話してるのなら由々しき問題だ。
男なら十中八九誘われていると勘違いするだろう。
「んー。そうですねぇ。お腹すきましたし、何か食べてから考えます。」
「それならお詫びにご馳走させて下さい!」
え、そんなに上手く行くの?平井さんの読み凄いなぁ。
じゃあお願いします!ご馳走様です!ついでにあなたも頂きます!みたいな勢いはダメだろうし。シュミレーションしとくんだった…。
「え…いやぁ…。それは…」
自然に2人で飲みに行くのはどーやって持って行こうかな。
「あっ!そーですよね!ホントすみません!迷惑ですよね!何の罰ゲームだよって感じですね!気にしないで下さい!変な事言ってすみません!」
え!なに!どーゆ事?ヤバイ!終わる!
「えっ!?いやいや!違いますよ!迷惑とか罰ゲームだなんて思わないですよ!ただ、俺の不注意でぶつかって迷惑掛けたのにご馳走になるのはどうかなぁ。と思って躊躇しただけです!」
お願い!終わらせないで…!
「迷惑じゃないならよかった!
それじゃあご飯食べに行きましょう!」
はぁ…よかったぁ。今ので身体中のビタミンCが減少したわ…。
「分かりました!あ、申し遅れました。須藤真人です。」
…ねぇシアン俺の名前…
俺の事…覚えてない?
俺の事思い出さない?俺は…
「あ、私は楠木詩杏です。よろしくお願いします。どんなのが食べたいですか?居酒屋さんとかなら開いてると思いますが、どこか良いお店開いてますかねぇ」
シアン…シアン俺はずっと…。
「…クスノキ シアン。あなたにぴったりの可愛らしいお名前ですね!」
忘れ物がないか辺りを確認。家の鍵を拾い損じてたらショック過ぎる。
…再会出来て嬉しい、忘れられてて悲しい、辛い、笑顔が愛おしい、会話が出来て幸せ。
色んな感情で目頭が熱くなって視界がぼやけた。
涙がバレないように顔を背け瞬きをし「行きましょうか」と言って階段に向かい2段程降りた所で思い出した。
あ!無害な人アピールしなきゃだった!
振り返りながら「足元気を付けて下さいね」と、言って微笑んだ。
シアンはやけにゆっくり階段を降りた。
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