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私の家の裏山には、おかしな噂があった。
その噂が広まり始めたのは三年くらい前で、私が小学五年生の時だったと思う。
裏山には山道が一本通っているのだけど、その道を一日の最後に通った人間は、別の世界へ連れていかれるというのだ。
この話をお母さんにすると、
「昔は人さらいや山で迷子になる子がようけいたから、そんな話が出たんだろ。そういうのは定期的に流行るもんなんだよ」
とうっとおしそうに言っていた。
同じクラスの前田くんは、
「おかしいだろそれは。だって、その日の最後の通行者だって、どうして分かるんだよ。夜遅くに人が通ってたって、五分後にはまた別の人が通るかもしれないのに」
と呆れていた。
確かに前田くんの言う通りだと思った。
この噂は、変質者に気をつけろというくらいの意味にとっておけばいいのかな、と私は判断した。
ある日、夕暮れ時に、その道を通ることになってしまった。
日が暮れる時間になると、この山道は普通は親が車を出してくれたりするんだけど、私は徒歩で山道を帰る羽目になった。
田舎の山なので、街灯もなく、本当に暗い。
黄昏の中で、黒い木々と気味悪くほの明るい空が妙な具合に視覚をくらませてくる。
自分の手のひらさえ、目を凝らしてようやくちゃんと見えるくらいだ。
いやがおうにも、例の噂を思い出した。
この山道を最後に通る人って、何時くらいに通るんだろう。
そんなに使われる道ではないので、そんなに深夜でなくても「最後の人」になってしまいそうだった。
でも、前田くんの言う通りだ。
最後の人だけが襲われるなんて、理屈に合わない。ただの噂だ。怖がることはない。
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