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「なんだよ、家に帰りたくなったんだろ」
「なってない」
「……ほんとにやるの? このまま普通に泊まってもいいんじゃない? それだけでも気分は変わると思うよ」
葵は春斗の不満そうな反応を興味深そうに眺めた後、「今日は疲れたなあ」と両手を上にあげて、大きく伸びをした。
このまま逃げを打とうとしているのではないかと春斗は焦り、無防備な体勢の葵をおもむろにベッドの上に押し倒した。
「うわ」
間の抜けた声を上げて仰向けに葵は倒れた。長身の葵を、二十センチ程背の低い自分が押さえつけている。いつも綺麗だなと思っていた色素の薄い瞳が、至近から自分を見上げていた。
腕の中に、葵が居る。
その近さと体勢に、ぞくぞくした。
キスがしたくて、どうしようと思った。
逡巡し、瞳を見つめていると、葵はほどけるように微笑み、少し厚めの唇をいたずらに尖らせた。誘っているのだと分かった。
「キスしてもいいの?」
「すごくしたいって顔に書いてある」
「え、うそ」
試みに顔を近づけても葵は逃げなかった。
春斗は葵に覆い被さり、半ば自棄気味に唇を触れ合わせた。本当に少しだけ、柔らかい感触が触れただけなのに、腰の奥がうずいてたまらなくなった。
やわらかい。気持ちいい。
春斗が夢中になって何度も唇を重ね合わせていると、葵の手が背中に伸びた。
「かわいいなあ」
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