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「葵さんが……」 「ん?」 「葵さんが、して」  ごくっと嚥下する音がした。細くて長い首の喉仏が動くのが見えた。 「多分ね、多分、すぐ出ちゃう」 「そういうこと言うかな」  口調は呆れたようだったけれど、片方の口角だけ上げて笑った。それが舌なめずりをするように見えて、春斗の胸は高鳴った。 「あお……」  触って欲しいともう一度ねだるつもりの呼びかけは、思いがけない口づけに封じられた。  さきほど葵の唇を充分堪能したはずだったのに、今味わっている感触は全く別のものだった。  唇を塞がれて吸われ、痛みを感じたところですかさずざらりと舐められる。むず痒いような感覚が唇を伝って背骨を走り抜け、たまらず開いたところからこじ開けるように葵の舌が口の中に入り込んで来た。  春斗は目を瞠り、葵の身体にしがみついて身を起こした。嬉しいのに、キスだけで身体全部が作り替えられてしまうような恐怖を感じた。  自分の口の中に他人の舌が入り込んで歯の裏や上顎を探られるのは気持ち悪かった。だけど、自分の舌を葵に捉えられ、舌の付け根や裏側を擦るようにされた時には、さすがに変な声が出た。  驚いて口を離し、唾液の糸が引くのが恥ずかしくて手で払う。  そうか、これがキスなんだと知り、葵のことをものすごく遠く感じた。 「こわい? やめる?」  さっきから意味も無く、はあはあと荒い息を吐きながら、春斗は首を横に振った。心許なく、立てた片膝に頭を乗せた。
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