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ベッドから降り、隣のベッドとの間の狭い床に膝を突いた。
暗がりの中、安らかな寝息と呼応するかのように肩が上下している。春斗は膝を突いたまま背を伸ばして葵の顔を覗き込んだ。
鼻筋の通った美しい横顔に見とれ、正体を無くしている時でさえも魅了させられる不思議さを思った。
おとなしくただ見ていただけだったが、至近距離からの気配を感じたのか、葵の眉根が寄り、「なんだ?」と寝言同然の声が掛かった。
「なんでもない」
「まだ朝じゃないだろ」
「葵さんのベッドに入っていい?」
尋ねれば、さっきまで目を閉じていた、葵の色素の薄い光る眼が春斗を見つめていた。
「なんで」
「雨降ってる」
「答えになってないよ」
通り過ぎる車が路上にたまった雨水を撥ねる音が、二人の沈黙を遮った。たったそれだけなのに静かな夜に際立って響く。
「それ取って」
先ほど自分が口をつけたペットボトルを、伸びてきた葵の手に渡した。葵はもぞもぞと起き上がり、残りのミネラルウォーターを飲み干す。上を向いて露わになった喉仏が動くのを見ているうちに、またもやおかしな気持ちになってきて春斗は目を逸らした。
「寒いってこと? いいよ、入りな」
飲み終わった空のペットボトルを手渡され、その代わりと言うようにアッパーシーツを少しめくられた。
「寒いわけじゃなくて、雨が降るとなんか、人恋しいというか」
「動物っぽいな」
「どうぶつ?」
「猫とか、犬とか、……お前はわんこだな」
わんこ? と内心で突っ込みながら遠慮無く葵の褥に潜り込んだ春斗は、思わぬ事態に声を上げた。
「なんだよ」
「なんで、何も着てないの?」
肩や背中が露わになっていたが、てっきり上半身だけが裸なのかと思っていた。
「下着は?」
「洗って今干してる。お前のも洗っといたから」
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