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「今いないね。転職したばかりだからそれどころじゃなくて。授業の準備とか、細々した事務とか雑用とか、結構時間かかるんだよ。先生って大変なんだね」
それまで色々な仕事を転々としていた葵が、最近高校の臨時採用の教員になった。任期が決まっているとはいえ教職に就いたことで、ようやく実家の敷居をまたぐ気持ちになったのではないかと両親が噂しているのを聞いた。
春斗には正直、葵が教壇に立ち地理だの歴史だのを教えている姿は想像できない。
「それに、彼女とも限らない。俺、男女問わないから」
「え?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
決して自らを差し置いてのLGBTに対する拒否反応ではない。
耳で聞いた言葉を、自分の都合のいいように解釈したのかも、などと余計なことを考えたせいで胸がどきどきし、言葉を咀嚼するのに時間がかかった。
「そうなの? 本当に?」
もしも、もしも葵が男性との恋愛に抵抗が無いなら、自分にも可能性が少しはあるのではないのだろうか。
後から考えれば、春斗と葵の間には、男性同士という以前に、三親等という、男女だったとしても結婚が不可能な親族関係だったり、春斗が義務教育中の未成年だったりするなど、問題山積なことに変わりは無い。なのにあまりに驚いてそれらが完全に抜け落ちた。
本当にこの時は魔が差したのだ。
「そうだよ、前の恋人は男で、その前は女性だった。好きになった人が好きだから、あんまり性別とか年齢とか気にならない」
「それなら」
春斗は思わず、椅子から立ち上がった。
「それなら、俺とつきあってください。葵さんのことが、ずっと前から好きなんです」
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