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「まあ、中学生の時なんてそんなもんだよ。思い込み激しいし、考え方も極端なとこあるし、好きな人だって出来る」 「葵さんも中学生の時に好きな人いたの?」 「まあね。俺の場合はちょっと特殊だったけどね」 「特殊って? 男女問わなかったって話?」  問えば、自嘲気味に微笑んだ。そういう顔もかっこいいけど、あまり話したくないのかも知れなかった。 「まあそういうのもひっくるめて。それにしてもなんで俺なんだよ。久しぶりに会ったから?」 「……そういうんじゃない、と思う」  正直に答えたのに、答え方が曖昧だったせいか、大声で笑われた。 「そう。じゃ、いっときのことかもしれないね」 「なにそれ」 「今だけってこと。子供の頃以来、久しぶりに叔父さんが家に帰って来たから物珍しくて、ふわふわした気分になってるとかさ。そのうち慣れてなんとも思わなくなるよ。しばらくしたら東京に戻るしね」  東京に戻る、と聞いて、胸がひずんだような衝撃を受けた。夏休みの間だけの帰省だと分かっていたはずなのに。今更なのに。 「いつまで居るの?」 「こっちに? はっきりとは決めてないけど、八月下旬に一度学校に行く日があるから、それまでには帰ろうかと思ってる」  戻って欲しくない。言っても仕方の無いことだけど、一度この家を離れたら、次にいつ会えるか分からない。葵が帰ってきたのは八年ぶりなのだ。  最長でもあと十日くらいしか無いなら、帰る前に、自分をつなぎ止めてくれないだろうか。 「お願いがあるんだけど」  言い出したものの、口にすることを躊躇した。ためらうくらいなら初めから口にするべきじゃない。  でも残された日数に限りがあるなら、断られたり嫌われたりしても耐えられるのではないだろうか。  それに、一度思いを遂げたら気が済んで、葵への思いが軽くなるかも知れない。
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