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『メス』
『あっ、やっちゃった』
私の朦朧とした意識もここで絶えました。そして目が覚めました。私は個室にいました。身体の感覚が全くありません。それでも脳は自分に何が起きていたのかこれまでの経過をしっかりと覚えています。
「ご友人の方が退院の挨拶に来られましたよ」
若い看護師がドアを開けました。
「よう、先に出るよ」
友人は松葉杖をついていました。横には四番目の夫人が同伴しています。
「ああ」
私はボロボロと涙が出ました。
「どうしたんだよ、直に出られるさ、また回復して独身貴族を謳歌しろよ」
夫婦で笑っています。若い看護師が友人に何か伝えています。夫婦の顔色が曇りました。
「希望を持てよ。見舞いに来るよ」
夫婦は病院を後にしました。
「私の身体はどうなった?手術の結果はどうだった?」
私は若い看護師に言いました。
「午後、院長先生からご説明があるようです」
午後になり院長室に行きました。院長室に入るとやはり回転椅子に座り海を見ていました。
「院長先生、お連れしました」
椅子を回転して私と目が合いました。
「院長、手術はどうなった。私は身体に力が入らない」
動けるだけを動かして見せました。
「頑張ろう、歩けるまで頑張ろう」
院長はガッツポーズを見せました。どういうことでしょうか、私は手術の結果を知りたい。今動かない手足は徐々に動くようになるのでしょうか。
「そんなことは聞いていない、手術は成功したのか?それとも失敗だったのか?」
私は涙が溢れました。零れる涙を若い看護師が拭いてくれました。
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