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人が人を好きになるのは当然だし、そのこと自体は素敵なことだ。
かつては禁断などと言われたLGBTへの理解などは昔と比べるとだいぶ寛容になってきているが…。
いつの頃からか政之を見る目に違和感を覚えるようになった。
何回目かでその違和感の正体に気づいた時、陽一は自分自身を疑った。
まさか自分がそういった感情を抱くなんて……。
この想いを告白したら、自分達の41年は確実に崩壊する。
だから悩みに悩んだ。このままでは政之との関係の前に、俺が生物として崩壊してしまう。
『世界中の悩み一人で背負ってたあの頃』という歌詞のヒット曲がかつてあったが、まさにそれくらい悩んだ。
そして出した結論が「告白するしかない」だ。
ヒット曲の方は『何も言えなくて』だったが。
場所を居酒屋にしなかったのは、一世一代の告白を酔いのせいだと思われたくなかったからである。
「愛?まあ色んな形あってもいいんじゃね」
質問の意図がはかり切れず珍しくやや戸惑いを見せながら政之は答えた。
期待通りの答をもらって陽一はついに政之の目を見た。
「俺は…俺は…和代さんのことが好きだ」
さすがの政之も数秒間、鳩が豆鉄砲を食らったような反応を示した。
「それは……愛してしまった系?」
陽一はゆっくり首肯して続けた。
「許されることなら結婚したい」
耳まで深紅に染め涙目で告白する陽一を見て、長年の親友である政之は全てを悟った。
そして陽一の勇気に敬意を表して、その告白に対して真摯に事実を伝えようと思った。
「まさかお前をそんなに苦しめてたとはな。気づかなくて悪かった」
「いや、政之が謝ることじゃないよ」
「でもまあ今後和代もいる場所にお前を呼ぶことはないと思う」
やはり政之を傷つけ怒らせてしまったかと陽一は思った。
「っていうのもさ、この前の和代の誕生日会の日な、お前が帰った後和代から聞いて俺も今更かよってぶったまげたんだけど」
政之が今から何を言い出すのか、緊張で名称不明の液体が体中から噴き出している気がする。
「今絶妙のタイミングだから言うけど、和代、20年前に初めて会った時からお前のこと好きじゃないんだって」
陽一は恥辱の海に溺れた。
<終>
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