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「そろそろ席につけーー」
友達作り、情報交換。新たな出会いによって賑やかな空間となった教室に現れたのは黒髪ロングの女性。身長は154cmといったところか。服装は全身黒を基調としていて、開いた胸元には真珠と思われるネックレス、地面に着かんとするドレスのようなスカートを身に纏い、教卓へ立つ。
促されるようにして生徒たちは自分の席に座る。一瞬にして賑やかな空間が、緊張感の漂う空間となる。
「さぁ、新入生の皆さん。私はこの1-Aを担当することになった……」
エリシア・ウテナ=ゼオリード。それが彼女の名前である。
この学園のクラス構成はA、B、C、Dとなっており、それぞれ20〜30人ほどの生徒で構成されている。実力としてはAクラスから順ということになっているはずだ。
「何故、俺がAなんだ……」
手違いかと思える状況、Aクラスは学園に入学する試験において優秀な成績であったもののみが入れる領域とされる。そんな中に紛れ込む最低クラスの剣術を持った人間。
そう、なんとも矛盾してるのだ。だから余計に視線は冷酷なものしかない。
「Aクラス。本来であればここは成績優秀者で構成されたクラスになる。しかし、今年は方針が変わった。長くなるから詳しく説明することはしないが、成績が優秀でないものも混ざったクラスとなっている。最上位と最下位が混ざったクラス、それが今年のAクラスだ」
成績優秀者以外を混ぜて生徒同士切磋琢磨できるような環境構築をしていく、そういう方針になることが決定したとのこと。ただ、それは学園側が一方的に決めた方針だ。
弱者が強者の刺激を受ける、強者は弱者に刺激を与える。実力に合わせた授業運営よりも、平等に運営することが、成長の原動力となるのだと考えているのだろう。あくまで思い通りに事が運べばの話だ。
『なにそれ、意味わからない』
『見習いと一緒とか』
『そもそも付いてこられないだろ』
実際、最下位は避けられる運命でしかない。良い刺激など得られるわけないのだ。
「静かに。まず始めにこの学園について説明していく……」
この学園に入学するために必要なものは“剣術”。
剣術の腕が認められれば、15歳となることで貴族から平民まで関係なく入ることができる。しかし、基本的には貴族の家系が生徒として入学することが多い。
王国では『騎士』と『剣士』という区分けが存在している。一般的に騎士というのは鎧を纏った兵士や馬に乗っている姿を想像することが多いだろう。しかし、ここでは王国の軍に所属すると『騎士』と呼ばれ、所属せずに剣術が認められた者は『剣士』と呼ばれている。
「知ってると思うが、剣術階級は全部で十階級ある。まず剣羽……」
剣術の道を歩くことを誓ったものとして、一番下の階級は『剣羽』と呼ばれる。まだ雛であることやこれから羽ばたいて行くことが“羽”という言葉に込められている。
「その次が剣美」
一段上の階級。剣術の基本ができていて、美しいことが認められた者という意味で『剣美』と呼ばれる。ただし、剣美階級の中でも別れており、『下級剣美』と『上級剣美』が存在している。
「それを超えたものがようやく剣士と呼ばれる」
剣士階級は、軍に所属しない者たちの中では最高階級に位置する。中でも区分けとしては『三等剣士』、『二等剣士』、『一等剣士』となる。
学園で目指せるのは一等剣士まで。
『騎士になるためには、一等剣士として卒業しなければならない』
教室にいる強者たちは心の中でそう言った。
「それぞれ、今の階級から一等剣士になること。それが目標となる。年6回行われる試験、3年間だと18回だな。チャンスを無駄にしないように」
上位の階級には認定試験がある。
いわゆる学校の定期試験だと思ってもらえるといいだろう。年6回行われる試験で階級を上げて行かなければならない。
“今の階級”というのは入学にあたって行われた試験だ。そこで実力を認められると最高で三等剣士から学園生活を始められる。
「君たちに今回の1学年全体の状況を教えておこう。嫌と思う人もいるだろうが現実だ、受け止めてくれ」
エリシア先生は黒板に階級と人数書き始めた。
「多い順でいくと……」
『下級剣美、72人』
『上級剣美、41人』
『三等剣士、3人』
『剣羽は……』
教室がざわめく――。
『あいつじゃん』
『ここにいる資格ないですわ』
資料を片手に黒板に書いていた先生でさえも一瞬手が止まって書くのを躊躇ったほどだ。
「俺だけ、ということか」
“1人”という黒板の文字を見て、アシルは『仕方ない』という顔をした。
例年剣羽というのは10人ほどはいると言う話だが、レベルが高い世代なのか彼一人だけというのが結果だった。
アシルに向けられる冷酷な視線は、数段階上がってしまった。
「剣羽であっても十分にチャンスはある。先程は3年でと言ったが……」
追加の説明が始まる。これは入学前に生徒たちが知っている情報ではなく、始めて明かされる制度だ。
「卒業直前に三等剣士または二等剣士であるものには、特例として最大2年間、学園に残って認定試験を受けることを選択することができる」
いわゆる留年のような制度だ。
最大12回のチャンスを追加で得ることできるが、最低限三等剣士になっていなければ強制的に卒業となってしまう。
「話がずれてしまったが、一等剣士でこの学園を卒業した場合、その先の道を選択することになる」
卒業後、必ずしも国防騎士軍にならないといけないということではない。大半は軍に入るということだけで、軍に入らず都市で職に就く選択肢もある。剣士という階級がほしい・単に剣術を極めたいだけという者もいる。
「王都で職に就く以外では、まず国防騎士軍に入る道」
国防騎士軍――。
国王ではなく、国王の下にいる国長が管理・統括している軍隊のことである。
ほとんどの生徒はこの国王騎士軍に所属するために剣術を日々磨いていくとになる。
国防騎士軍入隊試験は合格率は82%とされているため一等剣士になることは、軍に入る資格があると認められたようなものだ。
騎士という階級にも区分があり、『下級騎士』と部隊長クラス以上の『上級騎士』という区分となる。
さらに上、元帥になることができれば『聖騎士』という階級になる事ができる。
「それと、最高階級への道」
聖騎士を超えた存在が世界最強の座。
国防騎士軍は国長直属の軍であるが、元帥である聖騎士を倒した十二人の強者には、国王直属の剣士となることが認められる。
それが、『煌導十二剣聖』、剣術階級の最高階級となる。
「剣聖になるためには、まず聖騎士に正式な決闘で勝たなければならない。そうすることで十二剣聖への挑戦権が得られ、十二席あるうちの一席を指定して決闘し、勝利することでその席を奪うことができる」
煌導十二剣聖になれる確率は0.012%と言われている。“聖騎士と剣聖に勝つこと“という強大な壁は並大抵の力では無理であるということを意味する。
では、剣聖に挑んだものの負けてしまった場合や、剣聖から降ろされた場合はどうなるのか。
その場合は上級騎士として軍に入ることを認められ、将来の聖騎士有望株という扱いになる。
『先生質問です』
とある女子生徒が手を挙げる。
「許可する」
『聖騎士に挑むためには一等剣士にならないといけないのですか?』という質問を投げかける生徒。
「面白い質問だな。実際、そんなことはない。だが、一等剣士でも歯が立たない異次元の存在に挑もうなんて無謀な話と思わないか?」
剣聖への道では、認定試験を受ける必要はない。
それは“勝てれば”の話であるが……。
ちなみに剣聖になっても騎士同様に貴族扱いとなる。
「注意してほしいのは、道は一つしか選べないということ。騎士の道と剣聖への道を両方選択することはできない」
もし仮に入隊試験に落ちてしまった場合は、まず結果の評価をされる。成長の余地があり将来有望である評価が下されれば、一年後に再挑戦権が与えられる。そうでなければ、一等剣士として都市で職を探すことになる。
剣聖の道にて、聖騎士に勝てなかった場合、再挑戦権または、一年後に国防騎士軍入隊試験への挑戦が認められる。
「騎士になったからと言って、聖騎士に挑戦できないということではない。だから大半の者は騎士となり、さらに剣術を磨いて剣聖か聖騎士を目指す」
ただし、聖騎士となったものは剣聖にはなれない。一度聖騎士の座を捨てなればならないが、それは軍を捨てることに値するため聖騎士は聖騎士として一生を終えることが多い。
「以上が、君たちがこれから目指す道だ」
そうして、一等剣士を目指す生徒たちの学園生活が幕を開けるのだ。
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