最後の一日

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「もしもし。あの、どなたですか?」  知らない携帯電話からの着信に高杉さんは戸惑っているようだった。 「高杉さんですか? 僕、花嶋です。突然電話かけてごめんね」 「え、花嶋君? どうしたの?」  高杉さんはなぜ僕から電話があるのか分からないのだろう。驚いたような声を出した。 「今日、地球最後の日だよね。高杉さんにどうしても会って話したいことがあるんだ」 「……わかった」  僕の覚悟が伝わったのか、高杉さんはちょっと考えてそう返事をしてくれた。 「学校の前でもいい? えーっと今が9時だから、10時にどうかな?」 「うん、わかった」  学校へ続く桜並木は満開だった。  春の香りのするうららかな今日、本当に世界は滅ぶのだろうか。実感がまだない。  それでも後悔するのだけは嫌だ。だから今日は納得のいく日にするんだ。 「花嶋君。待たせちゃった?」  高杉さんの声に僕は顔を上げた。 「いや、僕も今来たところ」  僕は思わず高杉さんの私服姿に見入ってしまった。  薄い水色のブラウスに白いふんわりとしたスカートがとても似合っていた。  私服の高杉さんを見られただけで僕のテンションは爆上がりした。 「なあに? じろじろ見て……」  高杉さんが恥ずかしげに言った。 「ごめん、私服姿、初めて見たから。とても似合ってるなと思って」  高杉さんは頬を少し赤らめて、 「ありがとう」  と言った。 「それで、話って?」 「ああ、うん」  僕は意を決してこくんと唾を飲んだ。 「ずっと高杉さんが好きでした! 今日は地球が滅ぶ日だから、もし良かったら僕と過ごしてくれませんか?」  高杉さんは僕の告白に黙ってしまった。 「だっ、駄目ならいいんだ」  僕は沈黙に耐えきれず言葉を発した。 「……花嶋君の気持ちはとても嬉しい。でも、私、好きな人がいるんだ」 「そ、そっか! それじゃあ仕方ないよね」 「でも、花嶋君は凄いなあ。ちゃんと告白して、一緒にいたいと言えるなんて。私も野中君と一緒に今日いたかったな。でもそんな勇気もなくて……」  高杉さんの言葉に、僕は瞬時に高杉さんを応援しようと思った。 「まだ遅くないよ! 野中と一緒にいたいなら、そうした方がいいよ! 後悔しちゃうよ?!」 「そう、かな?」 「そう、だよ! 野中に電話出来ないの?」 「野中君の携帯の番号知らないから……」  高杉さんの言葉に僕は唇を噛む。僕も知っていたらよかったのに。   あ、でももしかしたら! 「学校にきっとあるよ!」  僕たちは校舎に足を踏み入れた。
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