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瀬南(せな)の告白
遠い昔に私は罪を犯しました。
記憶の彼方に沈むような、遥か遠い昔のお話です。
その頃の私は、物心ついた時から神の子と呼ばれていました。何故そう呼ばれていたのかはわかりません。それにだからと言って特別な子どもだった訳ではないようです。
なぜなら恐らく神の子と呼ばれる子どもは、誰でもよかったからです。
そこはジャングルの奥にある大きな帝国でした。平和な日本に暮らしている、今の私には想像もできない世界。それなのに目を閉じるとありありと見えてくるほど、繰り返し見た風景。
鬱蒼と茂る緑の葉に光る、太陽の日差しの眩しさや、雨量の多い地域特有の、湿気の強い土の匂いが立ち上ってくるのを感じられるのです。
四角く切り取った大きな石を積み上げた、ピラミッド型の神殿の頂点から、幼い私は人々を見下ろしています。
ジャングルという未開の地でありながら、そこにはたくさんの人々が暮らしていました。
神殿の周りの木々は伐採され広場になっていて、森の人々が集まっています。
彼らは神殿の前の地面に座り込み、両手を高く上げて祈りの言葉を叫んでいました。
夢はいつもそのシーンから始まります。
私は幼い頃から何度もその夢を見ていました。でも幼過ぎてその意味が全くわかりませんでした。
ある時、母親が買ってきた絵本に、夢で見たのにそっくりな神殿が描かれているのを見つけました。それは、中央アメリカに実在したとされる滅びた文明の遺跡でした。
夢の世界ではなくて、それはどこかに存在していたのだと驚きました。
幼い私には、そもそもそんな知識はありませんでした。
人気アニメのキャラクターたちが、タイムマシーンで訪れた場所でもあり、子どもの頃にそんなアニメを見て、頭の中で作り上げてしまったのかもしれません。
神の子と呼ばれる私の姿がピラミッドの上に現れると、人々は熱狂しました。
夢の中で私は、灰色の石を積み上げて造られたピラミッドの上で、朝の祈りを唱えます。
夢の中の私はとても幼くて、よくわからないまま、周りの大人たちの言う通りに動いていまひた。いわば傀儡のような存在だったようです。
なぜなら夢の中の私は、神の声も太陽の声も聞こえておらず、周囲の大人たちに指示された文言を、ただ言われた通りに繰り返していただけだったのです。
教えられた、祈りの言葉と神からの教えを、神殿の上から伝えると、決まって次のシーンでは、浅黒い肌をした老人の割に筋肉質のガッチリとした男が、目の前に立っています。
他の男性は上半身裸で、ジャングルに住む動物の皮で作った簡素な腰巻をしているだけなのに、その老人は、胸元に麻製の白い前掛けのようなものを身に付け、黒光する毛並みのいい黒ヒョウの皮の腰巻姿でした。
その男性は、最も権威のある神官でした。
彼は、神の代弁者として敬われている私の前に立ち、
「この勇敢な若者のどちらがより勇敢で、神に選ばれたものなのでしょうか」
と聞くのです。
私はそう尋ねられ、高らかに宣言するのです。
「それはこちらの青年である」と。
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