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「頼むよ! マジで5分だけでいいから、付き合って!」
放課後の誰もいない教室。私の目の前の席に座っている永井くんは、真剣な面持ちで私に向かって両手を合わせた。
「だからって、なんで私が」
「こんなこと、佐川以外、頼めるヤツいないから」
甘えるように、少し上目遣いで私を見つめる永井くんは、めっちゃ残酷だ。もちろん、私の気持ちなんて知る由もないわけだから、平気でお願いしてこれるんだろうけれど。
「わかったよ、5分だけだよ」
「まじ!? サンキュー。このお礼はなんでもするから」
永井くんは嬉しそうにガッツポーズをしてみせた。
永井くんと喋るようになったのは、3学期の席替えで前後になってからだから、まだ1ヶ月足らずだ。高校2年になって、初めて同じクラスになって、誰とでも仲良くなれるその明るさが羨ましくて、それからずっと気になる存在だった。
『5分だけでいいから、俺の彼女として親友に会ってほしいんだ』
そんな突拍子もないことを頼まれたのは、今朝のこと。他校にいる親友に、つい見栄で彼女ができたと言ってしまったらしく、なぜか私にその彼女役を頼んできたのだ。
「お、着いたみたいだ」
「え? もう?」
校門の前に、他校の制服を着た男の子がひとり立っているのが見える。
「ほら、アイツ。中野」
永井くんが、その中野くんに向かって大きく手を振ると、それに気付いた中野くんも、私たちに向かって大きく手を振ってきた。
「行こう」
心の準備もできないまま、永井くんの後に続いて、教室を出る。
5分だけ、中野くんに挨拶したら帰ってもいいからと言われてはいるけど、そのたった5分の彼女を、私は演じられるだろうか?
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