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永井くんは、私の手を離すと、中野くんのことを小突く。中野くんはそんな永井くんから逃れるように、私の後ろに隠れた。
嘘、だよね?
だって私は、たった5分だけの彼女。彼女がいると、嘘を吐いたとはいえ、永井くんが中野くんに、私の話を必要以上にするとは思えない。
「おい、それ以上佐川にくっつくな」
永井くんは、中野くんから私を引き離すように、私の腕を引っ張ると、その勢いで、私は永井くんの腕の中にすっぽりとおさまった。
「コイツは俺の彼女だから、誰にも触らせない」
永井くんの言葉が、耳元に甘く届いた。
こんな風にされたら、私もう、自分の気持ち、抑えられないよ。
好きって気持ちが溢れて、静かに永井くんの顔を見上げた。
「好きだよ」
永井くんの言葉は、演技だ。だけど嘘だってわかっているのに、このままこの嘘が真実になってほしいと願ってしまう自分がいた。
「亜由美は、俺のことどう想ってる?」
名前を呼ばれて、トクンと鼓動が反応する。
ちらりと見えた校舎の時計。約束の5分はとっくに過ぎていた。
もう、中野くんに嘘を吐く理由はない。5分間の彼女は、もうここにはいない。
「私も、ずっとずっと、永井くんのことが大好きだった」
嘘偽りのない真実を伝えると、永井くんの唇が私の耳元に触れた。
「5分はとっくに過ぎてるけど、それは演技じゃないって思ってもいい?」
「うん、5分以上、望んでもいい?」
「当たり前だろ」
永井くんが私を抱き寄せる。そんな私たちに手を振って、中野くんは先に歩いていってしまった。
fin
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