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「一応、他の人は可愛い伴侶や富、容姿とかの条件をつけてくるけど、君はどうする?何でもいいよ」
「あ、でも独裁者とか魔王とかはやめてね。心苦しいから」
彼の目は見えないが、多少は俺の選択に興味があるらしいのは分かった。ただ特に求めるものはない。
「何も思いつきません」
「嘘だね」
天使ははっきりと俺の言葉を否定する。
「君はずっと人の犠牲になって死を迎えたのだから、望むものくらいあるでしょう」
「いや」
「本当に?こんな人生送りたいとかは?今まで楽しかったり、嬉しかったりしたことぐらいあるでしょ」
俺は9回の人生を思い浮かべた。どの人生も波瀾万丈はあれども満ち足りたものだった。1つを除いて。6回目で第二王子が、アルフォード殿下が存在していなかったときは、死んでから愕然とした覚えがあった。6回目も騎士として生きながらも、悪辣な王に反抗する反乱軍の長を逃して処刑された。生きていたときには何も思わなかったが、王子がいなかったことにショックを受けた。無事、7回目には存在していた。
「アルフォード殿下の幸せの糧になりたい」
「はぁ?」
積み重ねた人生を思い浮かべながら、導き出した答えに、天使は不思議そうな雰囲気を醸し出す。
「1つを除いて、どの人生でもあの方が私を導いてくれた。誇りも喜びも、彼以上に与えてくれた者はいない。だから次こそは俺は殿下のお役に立ちたいと思います。アルフォード様の幸せを守りたいのです」
いつも途中までしか居られなかった。彼の人生がどうなったのかも知る術はなかった。最後の人生は彼を守り支えていきたい。言葉にすればするほど決意が固まり、俺は真っ直ぐ天使に向かい合った。
「分かった。じゃあ君の願いは愛しのアルフォード殿下とずっと幸せに生きることだね」
表現がおかしいことに気づき、否定しようと口をあけたが、先に彼の声が聞こえた。
「願い事を叶える為にサポートはするけど、本当に叶えるのは君の力だから」
「じゃあいってらっしゃい」
天使のパンっと手を叩く音が響いた。『ちょっと表現が違う』とか『結局、努力がいるのか』といった俺が出そうとしていた言葉は泣き声へと変わった。
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