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外に出ると村中の人間が道の端により跪いていた。遠くから王族の行列が通る鐘の音が聞こえ、俺もその場に跪いた。どの方の行列だろうか。こんな辺境への訪問は以前は無かった。もしあったなら流石に覚えている筈だ。
紫の旗がはためいている。王に近しい者の印だ。馬車と馬蹄の音が近づいてきて、俺たちは頭を低くした。俺の前を通り過ぎるところで馬車が止まった。
「殿下」
従者らしい者が咎める声がした。
「よい。降りる」
子供の声が聞こえ、馬車が開いた。通り過ぎると思っていた人たちは戸惑っている。
「顔を上げるな」
騎士の厳しい声がかかり、民は地面を見て固まっている。子供が土道を踏む音が俺の前で止まった。微かに見える靴は磨かれて輝いている。
「イアン」
名を呼ばれて頭を上げてしまった。目の前には金髪碧眼の同じくらいの歳の男の子が立っていた。気品が漂っていて村の子供達とは一線を画している。あと5年も経てば記憶通りのお姿になると思うと目頭が熱くなった。
上から頭を押さえつけられて視界が地面で埋まる。
「やめろ。離せ」
命令と共に圧力は軽くなり、子供の手が肩に手を添えられた。
「立ってくれ」
彼の手が私の手に添えられる。優しげな微笑みは変わらない美しさだ。促されて立ち上がると彼は俺を抱きしめた。懐かしい香りが鼻をくすぐる。お后様が調香した特別な香りだった。
「イアン、やっと会えた」
「アルフォード殿下!」
温もりを感じ、涙が流れた。今世も会えたことが何よりも嬉しい。
「殿下、このようなところで」
剣を持った屈強な男に話しかけられて、殿下は俺から離れるが、手は繋いだままだ。村人たちの気が俺たちに集中し、居心地が悪い。
「そうだな。ではイアンの家に行くとしよう」
殿下はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、騎士や従者の忠告を無視して、俺の手を引いた。振り回されることに懐かしさを感じる。
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