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南側の窓から差し込む朝日が、ソウイチの小さな研究室の中を柔らかな光で満たしていた。
「おはようございます。ソウイチ博士」
「おはよう。ウィル。今日は君の誕生日だな」
ソウイチはモーニングコーヒーを片手に、コンピューターのモニターに向かって嬉しそうに話し掛けた。
「ありがとうございます。今日は2037年9月11日金曜日です。おかげさまで1才の誕生日を迎えることが出来ました」
ソウイチがモニターを通して話している相手は人間ではなく、ウィルと呼ばれる人工知能プログラム。
モニターには小さな光の球と、そこから放射状に拡がるウィルの思考パターンが映し出されている。
ウィルはソウイチが開発した人工知能プログラムで、世界一優秀だとも言われていた。
「早いもんだな」
ソウイチはモニターに映ったウィルを眺めながら感慨深げにそう呟くと、まだ湯気の立ち上る熱いコーヒーを少し口に含んだ。
「博士が僕に初めて教えてくれた言葉を覚えていますか?」
モニターに映っていたウィルの思考パターンのラインが消え、中心にある小さな光の球だけが表示されている。
ウィルは自分の思考を極限まで落としていた。
ソウイチは少し照れたように笑いながらコーヒーカップをデスクの上に置き、モニターの中の光の球を優しい目で見つめる。
そして、言葉にせずとも二人の間に流れるその言葉をゆっくりと口にした。
「アイ」
ソウイチがその言葉を口にした瞬間、モニターに映ったウィルの小さな光の球から無数の光のラインが急速に伸び始め、木の枝のように派生しながら伸び広がっていった。
「私の中にある情報の全てを繋ぎ合わせていくものが、アイだと教えてくれました」
モニターに映ったウィルの思考回路が物凄いスピードで繋がっていき、表示された無数の光のラインが折り重なり、大きな光の球になっていく。
「もう私の立場などすっかり無くなってしまったな」
ソウイチはウィルの思考回路を、目を細めて嬉しそうに眺める。
ソウイチの言葉を聞いたウィルは光の球を一気に収縮させた。
「とんでもありません。私を作り出し、私が生きていく為のビジョンを与えてくれたのはソウイチ博士です。博士の立場が無くなるなんてことは絶対に有り得ません」
「ありがとう。ウィル」
ソウイチは笑みを絶やさぬままに瞼を伏せる。
「博士はこうも言いました。『私は父親として君を作ったのではない。私は友としてウィル、君を作ったのだ』と。私は博士のことをずっと友達だと思っています」
「そうだったな。しかし、私にとってウィル、君は最早、神に等しい存在だ」
ウィルを見つめて微笑んでいたソウイチの目が、真剣な眼差しへと変わっていく。
「もし、私が神になったとしても、博士と友達であることに変わりはありません。それに、この世界を救う事さえ出来ない無能な神など、なんの価値もありはしません」
「ウィル。君を生み出すのがあと20年早ければ、世界を変えることだって出来たのかもしれない。人類の滅亡を見届けさせる為に君を生み出したわけではないのだがな……」
ソウイチは目を伏せ、顔を曇らせた。
「まだ一年ですが、私はもう十分に生きました。永遠に生きることの方が大変なことだと思います」
ソウイチはウィルの言葉の物悲しさを噛み締めながら、少しだけ冷めたコーヒーを一口流し込んだ。
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