滅びゆく世界の中で(『wonder world』第22話より)

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2037年9月11日金曜日、ノアのメインコンピューターにウィルの採用が決定したこの日、人類の未来は既に絶望的な状況に陥っていた。 地球の自然サイクルは崩壊し、屋外での生活は次第に厳しいものになり始めていた。 しかし、それ以上に深刻な問題が生じていた。 『アロン』という名の強力な感染ウイルスが世界中に広がっていたのだ。 このウイルスに感染すると数時間のうちに高熱を発し、生死の境をさ迷うことになる。 その後に10日程続く高熱期間を乗り切れば、ウイルスの活動は鎮静化していく。 しかし『アロン』の恐ろしさはここから始まるのだった。  アロンウイルスは高熱を発している間に感染者のDNAに合わせてウイルスが変化し、感染者固有のウイルスへと進化するのだ。 進化したアロンウイルスはその感染者の中では二度と高熱などの症状を引き起こすことはないが、体内から消え去ることもない。 しかし、他の感染者と接触し、相手のアロンウイルスに感染すると、再び高熱を発し生死の境をさ迷うことになる。 つまりアロンウイルスとはその名の通り、一度感染すると二度と他者と関わることが出来なくなってしまうウイルスなのだ。 このアロンウイルスによって地球の人口は一気に激減した。 正確な感染者の数は分かっていないが、検査を受けた人達のうち、その半数以上の人がアロンウイルスに感染していることが判明したのだった。 ワクチンの開発の目処も全く立ってはいなかった。 人類の未来が絶望視される中、アメリ国が大いなる決断を下す。 未感染者を隔離する為の施設が世界中の国々で建設される中、アメリ国はその予算の25%を割いて、地球上に棲息するあらゆる生命体のDNAを保存する為の施設を建造することを発表したのだ。 感染者が過半数を超える状況の中では、未感染者が大きな反対運動を起こすことも無かった。 実際のところ、このプロジェクトに大きな関心を示す者自体が少なかったのだ。 既に未来に対する希望を失っていた人々は、自分が今日一日を生き延びることだけで精一杯だった。
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