桜色のキャンバス

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私が桜を嫌いだった理由はたくさんある。まず、毛虫がいることだ。私の家の裏の河川敷には桜の木があるけれども、毎年そこから毛虫がやってくるのだ。あとは、花見と称してドンちゃん騒ぎをする大人たちがいるのも嫌だ。酔っ払いは本当にタチが悪く、関わりたくない。 そして、一番の理由は、私の名前にある。私の名前は「桜」だ。この名前のせいで私は、今まで同じ質問を何回もされてきた。それは、「桜の季節に生まれたんですか?」というものだ。 その答えは、ノーだ。私が生まれたのは夏だ。親が季節感なんて何も考えずに付けた名前だ。そのせいで、私はこの質問にノーと答えなければいけなかった。その度に、質問者には困った顔をされる。そんなことが何度もあれば、自分の名前を嫌いになるのも仕方がないことだろう。そして、当然のごとく、同じ名前である桜の花も嫌いになったのだ。 そんな私が、今となっては桜の絵ばかりを描くようになったのは、一人の男性との出会いがあったからだ。
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