桜色のキャンバス

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私はほぼ毎日、その河川敷に来て絵を描くようになった。春休みが終わり、新学年になっても、河川敷に足を運んだ。桜はいつしか花が散り、緑色の葉を付けた。それでも私は、ピンク色の桜を思い浮かべ、花びらが舞い散る景色を描き続けた。 やがて、夏休みがやってきた。高校三年生も半ばとなり、そろそろ進路をまともに考えないといけない。しかし、私はそれでも絵を描き続けていた。だからと言って、絵に関わることを将来やっていくつもりもない。ただ、現実を見るのが嫌で、私は筆を取り続けた。 そんなある日、私は家でゴロゴロしながら、スマホをいじっていた。インターネットを散策していると、ある記事を見つけた。『この絵を描いた人を探しています』。そんな題名だった。その記事の中にある絵を見て、私は心臓が飛び出そうになった。それは、間違いなく、私が描いた桜の絵だった。 興奮する心を抑えながら、記事を読む。詳しいことは書いていないが、この絵を描いた人を探している、どうしても会いたい、というような内容で、記事の一番下に女性の氏名とメールがあった。 彼、ではないのか。もしかしたらあの男性が誰かに譲ったのだろうか。それを譲ってもらった人が私の絵を評価し、どうしても会いたいということだろうか。また絵を描いてほしいという依頼だろうか。それともプロの画家にスカウトされるのか。色んな妄想が膨らむ。 私は震える手で、そのメールアドレスをクリックする。そして、あの日の出来事をそのまま本文に打ち込み、メールを送った。返事はその日のうちに来た。会える日はないかということで、いくつかの日付の候補が書かれていた。そして、最後に書かれていたのは、会う場所だった。その場所は、あの河川敷の近くの病院だった。
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