THE LAST ORDER

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 春が近づいてきたと天気予報は言うが、それでもこの夜は身に染みるものである。  仕事を終え、会社を出た男は、腕時計を眺めて、その事実に天を仰いだ。 「もう10時じゃん……」  本来なら彼は、定時で帰る予定だった。しかし、突然発生したトラブルに巻き込まれ、結局いつも以上に残業する羽目になった。 「あー、腹減った」  対処してから今の今まで何も飲まず食わずだったことに気付く。しかし、この時間だ。見渡す限り多くの飲食店が既に閉まっている状況だ。なじみの定食屋もとっくに閉店している。  歩き回って入り口を一軒一軒眺めていたところに、ようやく開いている店を見つけた。目線の先には、テーブルを拭く店員の姿がある。誰もいないが、営業時間を見ても問題ない。 「洋食屋か。初めてだけど……入ろ」  男は躊躇なくドアを開けた。ベルが小気味よく店内に響く。 「……いらっしゃいませ」 「あ、はい」 「空いてる席、どうぞ……」  彼は店員の態度に首を傾げる。自分の顔を見るなりどういうわけか目を丸めた。少し不思議に思いつつ椅子に座ると、その店員がお冷を運んできた。 「……あの、すみません」
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