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〇年前、男はその病院を訪れた。 小さなリュックサックを背負っていた。 診療時間はとっくに終わり、とっぷり夜になっていた。 入口は閉まっていた。 婦長が出迎え、男を通用口に案内した。 誰もいない病院の階段を、ふたりは上がった。 婦長はドアをノックした。 ドアには『Dr ミハエル・アッバース』と書かれた真鍮のサインが掲げられていた。 「院長先生、患者さまをお連れいたしました」 「入りたまえ」 ドアの向こうから、(かす)れた声がした。 婦長はドアを開け、男に入るように促したが、自分は入らずにドアを閉めた。 煙草の匂いが充満した部屋の中には、薄汚れた白衣を着た初老の男がいた。 「服を脱ぎなさい」 医師に言われるがまま、男はリュックを床に下ろし、上着を脱いだ。 シャツの下で、背中が不自然に盛り上がっていた。 男はシャツを脱ぎ、下着も脱いだ。 ほっそりとした上半身の白い肌があらわになると、ドクターアッバースはゆっくりと立ち上がった。
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