3

4/6
前へ
/9ページ
次へ
「これが上腕骨、これが肩甲骨」 アッバースは、煙草を挟んだ黄色い指で画像を指し示した。 「そしてこれが翼の骨だ。解剖学的な名称はない。ここと肩甲骨との関節で翼を切断する」 アッバースは煙草をくわえると、男の翼の根元をつまんだ。 「私は数えきれないほどこの手術、プテレクトミー(翼切除術)をしてきた。君たちの解剖は、熟知している」 医師は、画像を消去した。 「服を着たまえ。手術は明日の夜行う。局所麻酔だが痛くはない、たぶんな。助手は婦長が務める。君が手術を受けることは、誰も知らない。私と婦長だけだ。カルテはない。レントゲンの画像も消去した。君の記録はいっさい残らない。手術で万が一何か問題が起こっても、責任は取りかねる。もちろん、わかっているね?」 患者は、うなずいた。 「まあ、手術は安全だよ。ただし、腕を高く上げることができなくなるが。心配するな、誰でも歳を取ると腕は上がらなくなるものだ」 アッバースは両手を上げようとして、煙草の灰がパラパラと落ちた。 婦長は顔をしかめた。 医師の腕は、水平より上には上がらなかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加