君とシトラス・サンセット

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 🍊  閉め切った部屋にも風雨の音が響いていた。  レースカーテンの向こうは仄白く煙り、民家の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。バラバラと激しい音を聞きながら、奈柘は窓へと近づいた。 「見事な降水確率100%……!」  せわしなく流れ落ちる雨だれを目で追い、小さく嘆息した。雨だ。初めての雨、だ。  五月の第一土曜日、二人にとって初めての雨が襲来した。 (俺が晴れ男なんて話題を振ったからかぁ? なにこのタイミング! てか、まさか……行ってないよな?)  スマートフォンを手に取り時刻を確認する。朝からどんよりと曇っているため、時間の感覚がつかみにくい。『いつもの時間』だと自覚したものの、屋上に行く理由などありはしない。 (でも、なんてったって真方さんだしなぁ。万が一……いやいやいや。ないない、あり得ない!)  台所と居間の鴨居に吊るされた洗濯物を一瞥する。ホームセンターで購入したランドリーフックなる便利用品のおかげで、カーテンレールに物干しを吊るさずに済んだ。いやぁ便利便利……などと、感心している場合ではない。  ゴォッと一際強い風の音が耳を突く。遮光カーテン越しの外の様子は不明瞭だが、雨が降りしきっていることだけはよくわかる。 「運動! 散歩! 今日は雨だから、屋上までちょっと散歩!! ぜんぜん歩いてないしな!」  誰が咎めるわけでもないのに、わざとらしく言い訳を声に出しながら玄関まで大股で進んだ。
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