45人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、昼過ぎに目覚めた奈柘は、二日酔いながらも記憶はたしかであった。
「えーと、どうするよ? 俺」
真方へ謝罪&お礼をすべきか?
ベッドではなく床の上で力尽きて爆睡したせいで体が痛い。首や肩を回しながら、昨晩の出来事をゆっくりと回想する。幸いにも望の顔は浮かばず、屋上で鉢合わせた奇妙な男が脳内を占めている。あの後、真方は自分の洗濯を放置して、奈柘を部屋まで送り届けてくれたのだ。思い出すと申し訳なさが募る。だが……。
「迷惑、だよなぁ」
酔っていたとはいえ、赤の他人にゲイバレするとは。いや、赤の他人でよかったともいえるが……ともかく、真方にしてみればとんでもない災難だったろう。二度と関わりたくないはずだ。
――僕で、よければ。
どこまでも愚直な声と瞳が蘇る。だが、同情を真に受けるほど青くはない。失恋の傷など自分一人でなんとかするものだ。
「なのに、盛大に他人に迷惑をかけちゃったよー……」
誰もいない部屋で頭を抱えこむ。昨晩、ふらつく奈柘を支えて部屋まで付き添ってくれた真方は、迷惑そうな素振りを少しも見せなかった。自室のドアを開けてよろめきながら中に入り、礼を言おうと振り向いた奈柘に、彼はもう一度、告げた。
「大丈夫」
玄関ドアが閉まる直前、柔らかに届けられた声に、再び涙が滲んだ。悲しみとはちがう、そっと頭を撫でられたような、安堵から落ちた涙だ。押しつけがましい親切も、ゲイへの好奇心も見せることなく、真方は静かに唱えただけだ。大丈夫、と。
崩れ落ちた奈柘は、子供のようにしゃくり上げた。いまだけだ。自分に向けた言い訳に鼻白みながらも、これから先の未来、望なんかのために泣いてたまるかと強く決めたのだ。
「あの人、本当に恋を知らないのかな?」
知りたい――熱っぽく落ちた真方の声は悪くなかった。
最初のコメントを投稿しよう!