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「俺たち、どっちかが晴れ男ですね、きっと。ここでこうして会うの、一度も途切れてないんですよ。気づいてました?」
「あー!」
珍しく大きな声で相槌を打ち、真方はうんうんと何度も頷いた。
「本当だ! 言われてみれば、そうだねぇ」
にこにこと嬉しそうに追従する大の男はかわいらしい。ニヤけるのを堪えて見つめていると、我に返った真方は慌てて頬を引き締めた。
「天気なんて気にもしなかったな。いつも、ナツくんがいるかどうか、賭けみたいな気分で屋上のドアを開けるから」
「賭け……」
うん、と、応じた真方の声は力強く、その思いがけない余韻に引き寄せられた。二人で共有する刹那の習慣に、期待してはいけないとわかっているのに。
「賭けごとは僕向きじゃない。いつも、ここに来る時……緊張と不安と期待とが入り混じって落ち着かない。実験の仮定や予測と似ているけど、ちょっとちがう。結果を求めて動くというより、どうなるのかわからない、僕はどうしたいのかが見えなくて、焦る」
珍しく言い切った真方は、奈柘にというより独白に近かった。いつの間にか、一面に広がる茜色に浸りながら、彼の言葉を咀嚼する。
真方の内に焼きつく景色は、恐らく自分と同じものだ。
週一回、こうして共有する夕空は、二人の心で何度も重ねられて、どんな色味を成すのだろう?
(そういえば、この人……あの日のこと、なんも聞いてこないな)
恋を知らないと真方は言った。
だから知りたい、と。
(恋って『知る』ものじゃないんですよ、真方さん)
燦々と注ぐ陽を浴びながら、喜びと表裏一体の不安を持て余す。恋などと呟いただけで照れるほどには青くない。望との出来事はすでに過去ではあるが、時を積み重ねるほど傷は痕跡を深めるものだ。
もう、涙も枯れ果てたというのに。
望から受けた仕打ちはしっかりと傷痕だけを残し、ざらりと乾いた感触を残す。
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