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屋上で仰いだ空は、ふぬけた水色だった。
頬を撫でる風はすっかりと温んでおり、いつの間にか季節が進んだことをぼんやりと実感する。物干し台いっぱいに干したタオルを一枚ずつ取りこむと、頭上には少しずつ平穏な青色が広がっていく。
奈柘は、洗濯物の揺らめく影を見つめて考える。
(待ち遠しい……のかな? 俺)
自分の気持ちという、もっとも確実そうで、その実、あやふやなものは手に負えない。認めかけた本心を振り払うように、タオルを洗濯カゴに放りこむ。
社会人二年目を迎える男子の休日は、二つの日課が欠かせない。一つは、溜めこんだ洗濯物をまとめて干すこと。洗濯は好きだ。汚れたものが綺麗になるのは単純に気分がいいし、限られた物干しスペースにどれだけ効率的に衣類を干せるかという挑戦も楽しい。反面、取りこみ及び畳んで仕舞う行為は嫌いだった。人間とは矛盾だらけの生き物である。
もう一つの日課は、ここ最近で定着した。
空の裾野がほんの少し金色に染まり頃に始まる新たな日課は、かれこれ二ヶ月ほど前に始まった。
奈柘の意志とは関係ないように。
奈柘の気持ちをはかったかのように、毎週欠かさず、きちっと。
(もう二ヶ月も経つのか!)
新たな日課が生まれた経緯を振り返り、またもや月日の流れに驚嘆する。忘れもしない、あの日――二月の深夜は寒風吹きすさび、涙に濡れた頬が凍りつきそうだった。
あの時の苦しみを思い出すと、いまでも胸が苦しくなる。つんと鼻の奥が痛み、抵抗するように空を仰いだ。淡い水色の空にはのどかに雲が浮かび、あの夜に見上げた冷たい月の姿はない。
大丈夫。
小さく唱えた声になんの説得力もないが、胸には安堵が広がる。絶望を抱えてうずくまっていたあの夜、彼が唱えてくれた魔法の言葉。
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