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「お先にごめんね。服までありがとう。タオルがふかふかで驚いた! なんでだろう? 僕ん家のは、そりゃもうゴワゴワで、洗顔後に拭くとヒリヒリして仕方ないんだ」
奈柘が用意したタオルを手に、真方は瞳を輝かせている。数秒前の緊張はなんだったのかと脱力しかけたが、なんとか己を奮い立たせて口角を持ち上げる。
「柔軟剤を変えたけど、そのせいですかね」
「柔軟剤!? あれは、使うものなんだ!?」
へええと心から感心している様子の真方は、もしや照れているのかも……などと一瞬だけ勘繰ったが、都合のいい妄想は首を振って打ち消した。
「おっと、こうしてる場合じゃないな。階段を掃除しなきゃね」
「あ、俺がやっときましたんで大丈夫ですよ」
えっと驚いた真方とまともに目が合う。眼鏡を外した顔は初めて見たが、ずいぶんと印象が変わるものだ。眼鏡越しでも綺麗な瞳だと思ったが、素顔で見ると、より印象的である。黒目がくっきりと色が濃く、理知的な輝きを宿した瞳だ。
湯上がり・濡れ髪という特殊条件も加わり、目のやり場に困る。
「僕が呑気にシャワーを借りたり、ふかふかタオルに感動している間にナツくんに労働させていたなんて……」
「モップで拭いただけですよ。大した量じゃないし。それより――どうぞ。適当に座ってくつろいでください」
それより――続けようとした言葉にためらい、数秒の間が空いたが、無論、真方には気づかれていない。
「飲み物はなにがいいですか? 冷たいのだと、緑茶とミネラルウォーター、あったかいのは珈琲か紅茶……てか、ドライヤー置いといたでしょ? 遠慮なく使ってくださいね。風邪ひきますよ」
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