詩「振り返る夕暮れ」

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久しぶりに見上げた 真っ赤に染まる夏前の空は 海沿いの夕暮れの匂いだった 手を振って歩きながら ふとカラスの鳴き声が聞こえて 思い出す 幼い頃に乗っていた 父の黒いセダンを 家族五人 汗ばみながら三瓶山に向かう途中 普段は温厚な父が なにかの拍子に前の車を追い抜かそう  とアクセルを踏み込んで 後部座席ではしゃぐぼくたちを横目に 山の風が囁きながら通り過ぎていく これは過去の情景だと 思えばその山によく連れて行ってもら  っていた 飼っていた犬が逃げ出したり 朝食のバイキングでバナナを取りすぎ  て怒られたり 兄がおねしょをしたシーツを交換しに  行く父についていったらぼくがした  ことになっていたり そんな思い出の 景色の続きがふと見たくなって 何十年ぶりだろうか その山に行ってみようと思い 妻と娘に話をしてみると 案外乗り気な返事がきたので ぼくは早速電話をかけて予約をした なんだ、 案外近いじゃないか、 セダンの音が耳元で 背中越しに聞こえてくる 後ろを振り向いたらもしかしたら そんな淡い気持ちを抱きながら 夕暮れは終わる 情景が遠ざかっていく 明日がそっと顔をのぞかせながら
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