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しかし、キッチンに立ったところで私は気づいてしまった。食材がない。帰りにスーパーに寄ってくれば良かった。
仕方ないので冷凍庫からお好み焼きを出す。ちょっと前に作ったものだ。レンジに突っ込んで500W6分に合わせて加熱する。レンジの低い音を聞きながら、私は床に座って瞑想をする。電波が届かなくなるからスマホが使えず、やることがないのだ。
あぐらをかいて、そっと手の甲を乗せる。呼吸に集中する。考えが湧いてくる。
「このままでいいのかな」
「理解者が一人しかいないのはしんどい」
「会社やだなぁ」
雑念はそのままにしておく。排除するのではなく、そのままに。そう思っているんだなぁと感じるのだ。
レンジが鳴る。ゆっくりと目を開け、手先を動かして意識を戻す。見慣れた自室。少し気分が落ち着いたようだ。食欲も出てきた。
ラップを取り、皿に移す。湯気がほかほかと上っている。ソースをたっぷりとかけて、箸で食べる。
「いただきます」
一人暮らしだけど、こういうのは口に出す方がいいと私は思う。
銀司は関西生まれだ。だから小さい頃から粉物料理が身近にあって、簡単に作れるから今でも好んで作る。一度にたくさん作れるし。お好み焼きが好きかと聞かれるとまぁまぁだけど。訛りを会社で馬鹿にされることがあるが、だからなんだと言うのだ。
「私は私だ、よね」
お好み焼きをかっ食う私が私なのだ。
食欲のままに食べ終え、しかしまだ食べたかったので冷蔵庫をあさる。
「お」
チーズかまぼこがあった。赤いテープを剥がしてもぐもぐと食べる。うん、おいしい。三本食い散らかしたところで食欲が収まった。食い散らかす、なんて女の子らしくないなぁと、食べ終えた残骸を見てちょっと落ち込む。
包装をゴミ箱に捨て、皿を流しに置きながら言う。
「ごちそうさま」
そのまま皿洗いをする。自炊はあまりしないから、大して溜まっていないけど。片付けないと私の気が落ち着かないのだ。
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