心の声

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心の声

 月明かりに照らされた森の小路を行くと、湖が見えてくる。そのほとりに、赤い屋根のおしゃれな建物が建っている。  そこは、訪れる者の望みを叶える魔法を扱うお店。その入り口に立って空を見上げると、満天の星たちがチカチカと瞬いている。その代わりに、先ほどまで見えていた月はどこかへ姿を消しているのだ。  入口のドアを開けると、チリンと鈴の音が鳴る。 「いらっしゃいませ」  続いて、女性の優しい声がわたしを出迎えた。 「あれ、ハルカちゃん。今日は生徒会のお仕事はよかったの?」  わたしは教科書の詰まったバッグをロッカーに置いて、彼女の前に座る。 「明日がテストだからって、みんな早く帰っちゃったの。ギリギリにやっても仕方ないのにね」 「ふふ、流石は優等生だね」  そう言って優しく笑うのは、この魔法店の店主のアヤさん。側にいるだけでほっとするような、優しい雰囲気を持つ女性。わたしの憧れの人で、お姉さんみたいな存在でもある。 「言ってみたいセリフだわ」  と、奥からもう一人、女の人が出てくる。アヤさんとそっくりな大きな瞳で、短めの髪型がよく似合う。こちらはアヤさんの妹のマナさん。いつも元気なわたしの友達。 「自慢じゃないけど、わたしは学生時代、テストは全部一夜漬けで乗り切ったからね」 「お願いだから、自慢しないで」  威張るマナさんを、アヤさんが困った顔でたしなめている。いつ見ても仲のいい姉妹でうらやましい。
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