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リビングでテレビを見ている女性。年齢は四十代後半から五十代ぐらいだろうか。ユイさんによく似ていることから、恐らく彼女がお母さんなのだろう。
これはユイさんが今見ている風景。お母さんを一旦は視線に捉えるのだが、すぐに視界から外れてしまう。ビーズを通して、ユイさんの動揺が伝わってくる。
もし、お母さんがアイドルを辞めることに反対だったら。彼女はそれが怖くて仕方がないのだ。
「ユイ、何か話があるんでしょ」
テレビを見ている風だったお母さんが、苦笑しながら話しかけてくる。ユイさんは驚いて声を上げてしまう。
「べっ、別に話なんてないよ」
「嘘おっしゃい。さっきからソワソワして、何か言いたいって顔に書いてあるよ」
ユイさんの動揺が激しくなってくる。彼女と同調しているわたしも、胸が苦しくなる。
「大事な話があるのなら、ちゃんと相手の目を見なさい。いつも言ってるでしょ」
その言葉をきっかけに、ユイさんはお母さんの顔を正面に捉えた。その瞬間、わたしは押し寄せる感情の波に意識ごと流されてしまいそうになった。
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