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ユイさんがイヤリングの魔法で見ている映像が、さらにビーズを通してわたしに伝わる。お母さんの心の中だ。
子供達がキャンプ場でカレーを作っている。みんな体操着なので、学校の行事だろう。ぽつんと離れたところに、子供の頃のユイさんがいた。輪の中に入れずにいた彼女が、こちらに駆け寄ってくる。
『お母さん、わたしもう帰りたい』
『何言ってるの、みんなでカレーを作るんでしょ』
『やだ、帰る』
泣きそうな顔で駄々をこねるユイさんの頬を、お母さんは平手で叩いた。ユイさんは驚いた顔をして見上げる。お母さんの叩いたその手が震えている。心を鬼にして、我が子を突き放したのだ。
子供の頃から友達が出来ず、人と関わることが苦手だったユイさん。大きくなってもその傾向が見られ、人目ばかりを気にするようになった。
心配していたお母さんは、アイドルの話を聞いて、チャンスだと考えた。嫌でも沢山の人に見られ、関わらなければならない世界。彼女が変わる何かのきっかけになればと思ったのだ。
お母さんがなにより願っているのは、ユイさんの幸せだ。彼女自身が正しく評価された上で、きちんと主張出来るようになってもらいたい。お母さんの強い思いが伝わってきた。
お母さんの心に触れたユイさんは、呆然とした。
アイドルだって、言われてやっているに過ぎない。自分がどう考えているのか、家族にまともに話したこともない。彼女の感情が溢れ出し、わたしにまで伝染する。
「お母さん、わたし、やりたいことがあるの」
泣きじゃくりながら、ユイさんは声を絞り出した。
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