心の声

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 わたしがこのお店で働くようになって、間もなく四年。  窓の外の星空を何気なく眺める。月が消えても、このお店の周りだけ星々が明るく照らしているので、闇に紛れてしまう心配はないのだ。 「ハルカちゃん、今日は泊まっていく?」 「うん、でも……」  わたしは幼い頃に母を亡くし、今は父と二人暮らし。その父は夜間に働く仕事のため、夕方からは一人になる。そんなわたしを心配して、アヤさんは出会った頃からほとんど毎日一緒にいてくれた。  昔は嬉しいばかりだったが、最近になって、迷惑をかけていないか気になっているのだ。 「遠慮しなくていいんだからね」 「うん」  アヤさんは、いつも優しい笑顔でわたしを見つめる。彼女がわたしのために使った時間はかなりのもの。わたしはそれにどう答えればいいのだろう。  チリンと鈴の音がして、入口の扉が開いた。お客様がやって来たのだ。 「いらっしゃいませ」  アヤさんが声をかけると、その女性は深くかぶっていた帽子を脱いだ。眼鏡の奥のおびえたような目が気になる。 「どうぞ、中へ」  彼女は、促されてようやく中に入ってきた。わたしは椅子から離れ、アヤさんのいる方へ回り込む。
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