犠牲のクエル

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 息を吹きかけた瞬間、目の前の空間が歪んだかと思うと、目の前が真っ暗になった。 「なんだ、ここは」  周りは夜どころか深夜に近いほど辺りが黒く、暗くなっている。 「ランドくん……なの?」  すると、向こうからクエルの声が聞こえた。 「クエル!?」  周りを見渡したが暗闇に目が慣れていないのか、どこにクエルがいるのかは分からなかった。  しかし、人間の目は目だけではない、耳もある。ランドは聴覚を頼りにしてクエルがいる場所を探し始めた。 (たしかこの辺りに声が)  ランドは辺りを見渡す。すると、目が段々慣れてきたのか、うっすらとクエルの姿が見えた。 「クエル!!」叫ぶと共に走り出し、クエルの身体を抱きしめた。 「よかった……クエル……」  一方でクエルは信じられない、と言うように目を大きくしている。 「え……これは……夢? なんで……ランド君がここに……」  初めはとまどっていたが、その内これが現実だと確かめるためなのか抱きしめる力を強めていく。 「ランド君なんだ……本当にランド君なんだ……!!」 「ああ……そうだ……俺だ」  ランドもクエルを抱きしめる。  このままこうしていけたら良いのに、とランドは思った。クエルも同じであった。  やがて、二人は互いの顔を見る。  つい先ほど、会ったばかりなのに、もう何年も会っていないような気持ちを抱いていた。 「クエル、逃げようここから」  そういうもクエルは何も言わずかぶりを振った。 「ダメだよ、私が犠牲にならないと、村の人たちに迷惑をかけちゃう」  クエルも、自分が生け贄にならないと、村が滅びてしまうことは分かっていた。  だからもう諦めていた。自分にはもうこれしか選択肢が無い、自分が犠牲になることで村が助かるならそれでも悪く無いかな、少し自分がヒーローになったような気分になっていた。 「そんなことは良い、俺はお前がいなくなって欲しくない」 「でも……」  クエルは俯いた。 「間違っているんだよ! この村のしきたりは! 誰かが他人のために犠牲にならなければ成り立つことが出来ないなんて、間違っているんだ!」 「だけど、それでも私が犠牲にならないと……」  ランドの言いたいことは分かっている。自分が犠牲になることなんて無い、と。  しかし、それでもクエルは自分が犠牲にならないとならない、と思っていた。 「自分一人が助かるために他の人が死んだら、私、生きていけないよ」  その言葉にランドは言葉が止まった。 自分がクエルの立場に変わったら、恐らく同じことを言っていると思ったからだ。 「クエル」  ランドの言葉にクエルは顔を上げた。 「もし、クエルが犠牲にならなかったら、それは俺のワガママだ」  どういう意味か分からずクエルは目を大きく見開いてランドを見る。 「俺は、村人全員よりもクエル、お前に生きていて欲しいんだ」 「ランド……」  クエルの目から少し涙がたまる。 「クエル、お前は将来、花屋さんになりたいって言っていなかったか?」  それを聞いて、クエルはハッとした。 「俺は、お前が花屋を開くところを見て見たいんだ。お前ほど花を愛している者はいない。初めて会った時、女の子なら花飾りの一つや二つするものだと俺は思っていたけど、クエルはそうしなかった。不思議だと思ってきいたら、お前は花が傷つくから、と答えてくれた。その言葉を聞いて、俺は君と友だちになりたいって思ったんだ」 「ランド……くん」 「クエル、俺はお前に生きていて欲しい」  ランドはクエルの目をまっすぐ見つめてそう言った。   クエルは顔をクシャクシャにした。 「ランド君……私……私生きていたい!! 生きて……いろんな花を見て、記録して、種から育てて自分だけの花を育てたい!! ランド君ともっと一緒にいたい!! でも、それでも私は選ばれてしまった!! もう助からない。本当は知っていた。私が死んだって村の人は少しも悲しまないって! だって村のしきたりから選ばれることは光栄なことだと思わなければいけないってなっているから、村人は喜ぶ。私の死を!! でも……そんなのホントは嫌だよ……私、最低なのかなぁ」  ランドの胸にクエルは顔を埋めた。そしてランドはそれを優しく抱きしめた。 「いいんだよ……ワガママで最低で良いんだ。人はワガママで、人のことを第一に考えなくて良い。自分のことを第一に考えたって良いんだ。そんな悪い奴で良い。それを排除しようとするなんて、俺は納得出来ない」 「ランド君……」 その時――
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