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「うあああああ!!!!!」
ランドは叫び声と共に起きた。
はあ……はあ……はあ……はあ……
服はびっしょりと汗で濡れていて、まるで豪雨に遭ったと言われても差し支えないほどのものであった。
決まってランドは同じ夢、いえ、現実を見て起こされる。
ライオンのたてがみのような金髪、そして普段訓練しているためか、外目からは見えないが鍛え抜かれている筋肉、それがランドの体である。
ランドは少し呼吸を整えて自分の上にある布きれに近い薄い毛布を脱ぐ。
麦で編まれて作られた靴を履いて立ち上がる。
そしてゴムで後ろ髪を束ねて一日が始まるのだ。
家の外に出ると、そこには沢山の乳牛が小屋におり、中で寝ている牛もいれば、立ち上がって干し草を食べている牛もいた。
ランドは酪農で生計を賄っている。ただ牛乳を出すだけではなく、チーズ、バターも自家製の乳製品を作っている。そしてランドの作る牛乳や乳製品は質が良く美味しい。だから、大変人気があり、金も家族一つ分なら軽く賄えるほどのものだった。
ただし、本人に家族はいない。
「さてと、今日のこいつらの様子はっと……異常はない、か」
辺り全体を見渡して、乳牛の体調を見る。
ランドほど経営をしていると、一目見て乳牛の具合が良いか悪いか理解できる。
鳴き声から顔色、干し草のあまり具合、フンの様子などのありとあらゆる要素から推測できるのだ。この日は一目見ただけで、乳牛たちが元気にしていることが理解できた。
「さてと、少々エサを見てきますかね」
そう言ってランドは小屋の中にある、木製の台車を取りだし、小屋から出て行った。
まだ、朝の日差しがそんなに強くなく、辺りは少し薄暗い。
しばらく、その景色に目を奪われたようにランドはぼうっとしていたがやがて台車を引いて歩き出す。
冬から春にかけての寒いのか暖かいのか分からない風がランドを迎入れて祝福している。
しかし、ランドの頭の中は憂鬱であった。
(また、この時が来てしまったのか。五年以来のこの時が)
ランドの村はタナティ村という。その村は農園や酪農、そして海辺でもあるので海産物も採れる普通の村よりも少し栄えている村だった。しかし、この村にはたった一つしきたりがあった。それは――五年ごとに村人を一人、村の土地の神様に捧げなければならないというものであった。その捧げなければいけない人は村長が持っている水晶玉に映し出されることで決められるのだ。
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