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その後のことはよく覚えていない。
覚えていることといったら父親が村長に注意を受けていた。てっきり自分も叱られると思ったが。父親は何も言わず抱きしめた。
ごめんな……ごめんな……
そう言って涙を流していた。涙が背中に伝わり、段々感覚を取り戻したランドはそこで自覚した。もう母親はこの世にいないのだと。何も言わずランドは目をつぶった。涙が溢れて顔を濡らしていく。口や鼻に涙が入って行く。涙は少し血の味がした。恐らく顔中の傷がそういった味にさせていた。ランドはその味を今も覚えている。
その後、ランドは父親と過ごしていたが去年、その父親も他界した。
父親がそうなる前に酪農を学んでいた。もちろんそれも父親から習ったものである。
その経験をもって今を生きている。
五年ごとに村から生け贄が選ばれてしまうことは父親から聞いたことである。
つまり、選ばれてしまった人はその時点で死ぬ運命は決まってしまうのだ。
自分の母親が死んでから、五年後、今に至る。
とうとうこの時がやってきてしまった。
ランドは今年は誰が選ばれてしまうのか、そのことが頭をまわり正直言って仕事どころではなかった。
それでもランドは心に決めていることがあった。誰が選ばれようと絶対に生け贄を止めてみせると。もう自分の母親と同じ目に遭う者を発生させないと決めていた。
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