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祈りが神に聞き届けられ、傘の頭紐がミミズのように波打つ。次の瞬間、無数に枝分かれした糸が長々と伸び、送り狼を雁字搦めにした。
「ぐげえっ!?」
霊力を纏って太く編み上がった縄が、「怪異」を容赦なく責め立てる。喉を締め付けられて喘ぐ捕虜に、できるだけ柔らかく呼び掛ける。
「これは失礼……貴女にお伺いしたいことがありまして……その銀髪娘とやら……他にどんな特徴がありました?」
(ふ……フンッ! そのようなこと、貴様に話す義理はないわ!)
「余計な抵抗はしないでください……さもなくば……」
「グギャアアアッ!?」
白い泡を吹きながら、「お犬様」が海老反り状態になる。彼女のプライドがへし折れるのは時間の問題だった。
(く……黒い靴を履いていた! 厚底で、毛皮の装飾が施されていて、実に珍妙な一品だった!)
「ほうほう……他には?」
(の、残りの衣服も黒で統一されていた! 眼鏡の縁に至るまでだ。肌は白く、頬がほんのりと赤くて、瞳の色は……その……燻んだ金のような……)
「……シャンパンゴールド?」
(え……英国語に詳しくはないが、恐らくそれだ)
ふむ、やはり自分の勘は当たっていたらしい。いずれの情報も監視カメラの映像と一致している。どうやら想像していたよりも早く、裏切り者のツラを拝めそうだ。
「それでは最後の質問です……銀髪娘は……無口でしたか?」
(あ……ああ。やけにこましゃくれたヤツだったよ。命の危機に瀕していながら、泣き声一つあげないのだから)
「ふふふ……これで確定ですね……ご協力ありがとうございます……ついでにもう一つお願いが……」
(な、なあ……貴様とあの小娘、一体如何なる関係なのだ?)
「……それ……答えなきゃいけませんか?」
(い、いや! 無理強いするつもりはない! ただ貴様らは、その……匂いが似ているような気がしてな……)
余計なことを言ってしまったと、慌てて弁明する「怪異」。態度こそ情けないが、その嗅覚は侮れない。
「……そりゃあ似ているでしょうよ……彼女と自分は……元同志ですから」
(元? 今は違うのか?)
「ええ……とてもじゃないけど好きになれませんよ……教祖殺しの大罪人なんて」
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