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「とにかく俺が言いたいのは、偽物には偽物なりの価値があるってことだ! 世の中で本物を名乗れるのは、ほんの一握りだけ。残りは何かしらの模倣品に過ぎない。
でもね、それで良いのさ。たとえ贋作と罵られようが、出来損ないと批判されようが、一ミリも気にしなくて構わない! 宿る『魂』に貴賎はないからね。
というわけで、お嬢さん。君が普通の人間でなくとも、俺達は――あれ、どうしたの? 手足をバタバタさせたりして」
自分の世界に入り浸っていた柚麒さんが、ようやく異常を察してくれた。困惑状態の彼に猛然と訴え掛ける。右手でしきりに胸を叩きながら、左手で汚れたテーブルを示す。
「ん、んー? いやあ、済まないねえ。ジェスチャーだけじゃ、何を伝えたいのか……あらら、お雑煮が大惨事に。待っててね、拭き取ってあげるから――むむ、お雑煮?」
パンッと膝を打つ響き。お喋り屋の口角がにいっと引き上げられる。どうやら命懸けのハンドサインが意味を成したらしい。
「はっはー、理解したぞ! お嬢さん、君は一心不乱にコイツを吸っていたよね? で、ついつい噛むのを疎かにしちゃって、お餅を喉に詰まらせてしまった。
つまり、文字通りの息絶え絶え! 酸素不足で死にそうってわけだ。いやー、納得納得……一大事じゃあないか!」
キレがあるノリツッコミをかます柚麒さんに、若干の敵意が湧く。「気付くのが遅いぞ!」とブーたれてやりたいが、語れないことを抜きにしても状況が悪い。
身体の内側から鎖で縛られるような、洒落にならない圧迫感。口をパクパク動かしてみても、肝心の肺が機能してくれない。伸び伸びになった舌は痙攣し、今にも千切れてしまいそうだ。
ああ、何としょうもない最期だろう。怪異の凶牙に散るならまだしも、暴飲暴食の末に押っ死ぬだなんて! 地獄の閻魔も鼻で笑うぞ、こんなの。
「あーっと、えーっと、どう対応するのが正解なんだっけ……そうだ、ハイムリッヒ法! お嬢さん、少しだけ俺に身を預けて。すぐに終わらせるから!」
極度の息苦しさと情けなさに苛まれ、意識が薄らとしていく中、不意に肩を引っ掴まれた。腹話術の人形を操るみたいに、無理矢理席を立たされる。
強張った肉体はコントロールが利かない。自重に耐え切れずフラフラするのを、背後からしっかりと支えられる。
臍の真上に回された、古傷だらけのタフな腕。枝葉を広げる樹木のごとき、大地に根差した頼もしさ。
不謹慎だと知っているが、場違いだとは分かっているが――思いがけない抱擁に、私の心はときめいてしまった。
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