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「はーい、ちょっとギュッとするからねー。せーの、ドリャアアァッ!」
「!?」
がなり立てるような合図の直後、私の乙女心は呆気なく捻じ伏せられた。胴体が真っ二つに裂けたかと錯覚するほど、凄まじい痛みが腹部を襲ったからである。
抱擁は抱擁でも格闘技。潰れた肺から搾られる空気が、ハイスピードで体内を逆流する。過剰な負荷で血の巡りが止まり、激しい吐き気に見舞われる。
息苦しさと狭苦しさ。二重の閉塞感に責め立てられて、脳神経がショートを起こす。暴走する生体信号に掻き乱され、私は柚麒さんの腕の中で身悶えしまくった。
「うおっと!? 落ち着くんだ、お嬢さん! 異物を取り除けば楽になるから!」
滅茶苦茶な暴れっぷりを諭されるが、到底聞き入れられない。一層の怪力で締め上げられても、負けじと反発してしまう。まるで他人事。頭上から己を見下ろしているみたいな、無責任な感覚に支配される。あるいは本当に、魂が肉の器から離れ掛けているのかもしれない。
いやいや、正気に戻れ。この絶え間ないしんどさこそ、私が生きている何よりの証拠ではないか。「語らずの巫女」の使命を捨ててはいけない。邪神に付け入る隙を与えないためにも、きっちりと「救世主」の荒ぶる善意を受け止めて……あ、駄目だコレ。やっぱり駄目だコレ。気持ち悪いとかそういうレベルじゃない。腹筋からブチブチって音が聞こえるし骨が既に何本か折れてそうだしもう冷静ぶってらんないよとっくに限界だよ何で私ばっかり酷い目に遭わなきゃいけないのさ神のド畜生めっ!
「……ハッ!?」
――支離滅裂な思考が回り回って、神への八つ当たりにまで発展したところで、気管の栓がスポンと抜けた。舌の上で跳ねる餅の欠片を、慎重かつ迅速に噛み砕く。粉々になったそれを今度こそ、確実にゴクリと飲み下す。
「よっしゃ、間に合ったみたいだね! さあさあ、ゆっくりと息を吸うんだ」
危機は去ったと判断してか、柚麒さんがパッと拘束を緩める。いきなり解放されて、私は膝からその場に崩れ落ちた。両手を突く姿勢でありったけの酸素を取り込む。小豆雑煮など目じゃない甘美さが、一瞬で全身の細胞へ行き渡る。
無音のブレスを繰り返す間、私はついつい安心――もとい、慢心していた。全ての障壁は取り払われたのだと、本気で信じ切っていた。他者との距離を見誤ったばかりに、新たな災厄を芽吹かせてしまっただなんて、想像さえしなかったのである。
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