第二章 -ソウル-

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「ハハハ! 手荒な救出になっちゃってごめんね。どこか違和感は無いかな? ハイムリッヒ法はメジャーな応急処置だけど、内臓にダメージが及ぶ可能性もあるからさ」  四つん這いのまま喘いでいると、柚麒さんが背中を(さす)ってくれる。また彼に助けられてしまった。完全に自業自得の事故だったのに。  嘆かわしさが拳を熱くする。呼吸が安定してきた頃合いを見計って、私は桜造りの床をガツンと殴った。反動で下半身を()ね上げ、タイミング良く爪先から着地する。震えるふくらはぎに力を込め、バネの要領で飛び起きる。  かくして、多少ぐらつきつつも立ち直った私は、心配げな「救世主」にピースサインを送ってみせた。絶不調なのを悟られないよう、ガラにもない笑顔まで添えて。 「うおお、これは……大丈夫そう、かな? ウンウン、大いに結構!  さてと。取り敢えず店員さんに片付けてもらっちゃおうか。で、準備が整ったら取材を開始しよう。色々聞くつもりだけど、答えられる質問にだけ答えてくれれば良いから。ディープな事情なんかは追々――」  呼び出しベルをチンと鳴らすと、柚麒さんは空いた食器を運びやすいよう重ね出した。慌ててこちらもお手拭きを掴み、ぶちまけられた液体の始末に掛かる。  が、テーブルクロスに染み付いた汚れは意外に頑固で、幾ら(こす)っても綺麗にならない。どうしたものかと試行錯誤していると、柚麒さんが思い出したように呟く。 「そういえばさー、お嬢さん。さっきはバタバタしていて言う機会も無かったけど――」 「……!?」  最初は何を言われたのか理解できず、石像のように固まってしまった。自分だけ時の流れから隔絶されてしまったような、乾き切った感触。ほんの一瞬だけラグを挟み、世界が元通り動き出す。  どうか間違いであってくれ。絶対零度の汗を滲ませながら、錆び付いた首を正面に起こす。歪む視界に映るのは、。残酷すぎる現実を目の当たりにして、再び息が詰まる。  私は何をやらかした? この口で何と言ってしまった? ――ただ一言、「」と言ってしまった。
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